リベルスタン王国にも夏が来て、照り付ける太陽がじりじりと肌を焼く季節になった。いよいよ待ちに待ったバカンス。私は持っていくドレスや靴を選びながら、楽しみで仕方なかった。
港町まで馬車で移動してから、停泊している王室専用の大型帆船に乗る。マストが三本もある立派な船で、速度も出るらしい。見た目もカッコよくて素敵な船だった。船員さんたちの仕事も手早くキリリとしていて、普段から船に乗り慣れている人達だろうと思った。
「わーい、みんな早く行こう!」
レオナルド陛下はいつにもまして明るくウキウキしておられた。陛下が一番この催しを楽しみにしておられるのかもしれない。陛下のご両親である先王ご夫妻をはじめ、ルースさまのごきょうだい、ご親戚など乗客は王室関係の方ばかりだった。私の大好きなシシリーもいて、私たちを見つけると軽く手を振ってくれる。
「ルース、サーシャ、久しぶりね!」
船上で見るシシリーもやっぱりクールで格好良かった。
「私の姉がルースのお兄様と結婚してるの」
シシリーがそう言うので、二人は親戚でもあるんだ、さすが公爵家だなあと私は感心した。家柄も釣り合っているし、安定した幸せな結婚なんだろうな。
「そうそう、サーシャをみんなに紹介しましょうね」
ルースさまはそう仰ると、私を連れてご家族の間を回り、丁寧に紹介して下さった。皆さん上品で優しくて。私もこういう方々の仲間に入れるのかなと不安だったけれど、
「あなたがサーシャね。ルースが選びそうな子ねえ」
とご年配の女性に納得した様子で言われて、それで少し安心できた。
大きな帆いっぱいに風を受けて、船はスイスイ飛ぶように走った。海も凪いでいて、青空を映してきらめいている。三時間ほどで目当ての離島が見えてきたので、私は嬉しくなって甲板の手すりにつかまりながら背伸びをした。ルースさまは帆を操る船員の仕事を丁寧に観察されながら時折質問なさっていて、本当に船がお好きなようだ。
島もだいぶ近づいてきてあと少しで港に着くかなと思った時、ドンと重い響きがして船体が大きく揺れた。船は止まってしまったようで、船員たちが慌てて走り回っている。私は船底をこすったのかなと思ったけれど、事態はもっと深刻なようだった。
「このままでは浸水します。ボートで脱出して下さい」
船員たちはそう言うのだけれど、救命ボートは四艇しかなく、全員を運ぶには何度か往復しなければならないので船上はちょっとしたパニックになった。
でもちょうどいいタイミングで離島から漁船が何艘も駆けつけ、私たちを島まで乗せて行ってくれることになったので、私たちはホッと胸を撫でおろした。怪我人も出なくて不幸中の幸いだったのだけれど、
「一体何に衝突したんだ? こんなところで座礁するはずがないんだが……」
私は船員さんのこの一言が気になって。座礁した船体と海の様子をじっと見つめながら、しばらく考えを巡らせていた。