九月になり、ヒューの誕生日が近づいてきました。ヒューは今年十八歳になります。ヒューと私の誕生日はふた月しか違わないので実質二歳差のようなものなのですが、学年では三つ違っていました。ヒューのお仕事も休暇明けで、いつにもまして忙しいようです。
私は相変わらず申し訳ないほどのんびりした毎日を送っていたのですが、そんな私の元へ差出人不明の不思議な手紙が届くようになりました。その内容が、怖くて……。時候の挨拶もなく内容は唐突で、筆跡もわからないよう活字に似た無機質なアルファベットで書かれています。
「あなたは義弟とずいぶん親・密・な・関係のようですね。あなた方には秘密が多そうだ」
私は怖くて、思わず白い便せんを取り落としてしまいました。
どうしましょう……。ヒューといろんな所へ行っていたことが目撃されているのでしょうか。噂好きな人がほとんどの狭い貴族社会ですから、私たちの話が広まるのも時間の問題だったのかもしれません。
私はメイド長のエマにお茶を淹れてもらうと、何とか飲んで心を落ち着けようとしました。誰かがわざわざ夜中に敷地内へ投げ込んでいくようで、この手紙が誰のものなのか、目撃した人はいないそうです。差出人のない封筒に、私の宛名だけ書かれていて……。
私は怖くて仕方ありませんでした。ヒューに何かあったらどうしましょう。私とのことで侮辱されたり、お仕事に支障が出たりしたら……。ヒューは普段私に何も言いませんが、既に弊害は出ているのかもしれません。
次の手紙が来たのは、最初の手紙から一週間後のことでした。
「私はあなた方に関する秘密を全・て・知っています。動かぬ証拠もありますよ。この秘密をばらしたら、国じゅうちょっとした騒・ぎ・になるでしょうね。あなたの愛・す・る・弟君がどんな顔をするか楽しみだ……」
力強く付された傍点が怖さを助長していました。私たちに関する秘密とは何なのでしょう? それこそ、ヒューが私を恨むことになった原因なのでしょうか? 私はそれを知りたいような、知るのが怖いような気がして震えが止まりませんでした。
「警察に通報しましょう」とエマは言ってくれるのですが……。そのほうが秘密を公《おおやけ》にしてしまう気がして。言ってしまって大丈夫なのでしょうか? 私はヒューに相談しなきゃしなきゃと思いながら、この程度のことも自分で解決できないのかと呆れられる気がしてなかなか言えませんでした。お仕事の邪魔になっては悪いし……。本当は、真実に向き合うのが怖かったのです。ですが最後の手紙がきて、いよいよこれが自分ひとりでは対処できない問題であることを悟りました。
「話は簡単です。あなたにこの秘密を買い取って頂きたい。額はお・気・持・ち・で構いませんよ。受け渡し方法はまた後日、お知らせしましょう」
お金……。私は困って途方に暮れてしまいました。私には自由にできるお金がないのです。いえ、あるのかもしれませんが、私は家計を全く把握していないのでわからないのです。これはいよいよヒューに相談しなければならない。私は覚悟を決めて、ある夜ヒューと一緒に食事をとった後、お茶を飲みながらこの話を切り出すことにしました。