ふわっと優しいルースさまと、キリッと凛々しいシシリー。二人並ぶと例えようもなく美しくて。
これはお似合いだわ……。
私は自分がルースさまのお邸で働くメイドだったとしてもシシリー派になるだろうと思った。これは皆の反発も当然ですわ。
私には彼女に負けて悔しいという感情は一切なかった。ただ、これほど素敵なシシリーを間近で見ながらなぜルースさまは私を選ばれたのか、心底謎で仕方ない。家柄、立ち居振る舞い、能力、顔。私がシシリーに勝っている要素、何一つないと思うんだけれど……。
私はそんなことを考えながら、ただぼんやりルースさまとシシリーを見ていた。二人は何か重要な会話を重ねていたようだったが、やがてシシリーは馬に乗って先に帰ってしまった。白馬にまたがるシシリーもカッコいい……。私はぽわっと上気した顔で聖堂を出ると、ルースさまと共にシシリーを見送った。
「サーシャ、少し手伝ってもらえますか?」
ルースさまはシシリーに見とれる私を微笑んで眺めておられたが、やがて促すように声をかけて下さった。
「あっ、はい」
外の掃き掃除をはじめ、花壇の水やり、聖堂内部の雑巾がけなど仕事はいくらでもあった。殿下ともあろうお方がこんなことまでなさるんだと私は驚いたけれど、これも司祭としてのお勤めなんだろう、ルースさまは平然とこなしていらっしゃる。
私はじっとしている方が落ち着かなかったので、喜んでお手伝いさせて頂いた。ルースさまのお祈りやオルガン演奏も聴けて、私は得した気分だった。
「今日はありがとう。疲れましたか?」
帰りの馬車の中で、ルースさまは優しく訊いて下さった。
「いいえ、楽しかったです。明日も来ていいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
ルースさまは嬉しそうに微笑んで下さる。
「シシリー、素敵でしたね!」
私はそのことばかり印象に残って、興奮気味に語った。
「馬に乗る姿も凛々しくて、乗馬も上手なんでしょうね」
「ええ。シシリーとはいい乗馬仲間です」
ルースさまも笑って頷いておられる。
「芯のある、とても頼りになる女性ですよ。私の最も信頼する友の一人です」
ルースさまの言い方がしみじみと心からの感じなので、シシリーファンの私は嬉しい反面、それほど信頼する人と結婚しない理由も何かあるのだろうと思った。したかったけれど、できなかったのかな。私にはわからない、今まで培ってきた二人だけの時間があるんだと思う。
「サーシャ」
ルースさまは私の耳元で、シシリーのことで頭がいっぱいの私に優しく微笑みながら囁かれた。
「キスして、いいですか」
「……えっ?」
私はハッと我に返って、ルースさまを見つめた。馬車が少し揺れたので、ルースさまは私の手を取って支えて下さった。
「嫌なら、やめます」
手を握られたままじっと見つめられると困ってしまって。やめられるのも惜しくて、私はついルースさまにすがるように言った。
「やめないで……下さい」
時折揺れる馬車の中で。私は初めてルースさまとキスをした。