「本体の影として生きるのは辛いことも多かったのですが。今は幸せを感じますねえ」
分身さんは立派な絨毯の上に腰を下ろされると、私をお膝の間へ座らせて下さいました。私のお腹に両手を回され、ギュッと抱きしめて下さいます。私は密着して下さると落ち着く気がして。時折分身さんの頬に自分の頬を擦り寄せました。
「本体を働かせながらリテと二人きりの時間を楽しめるとは。至福です」
分身さんはとても満足されたご様子で、ニコニコ笑っておられました。私は自分だけのんびりさせて頂いて申し訳なく思いましたが、
「リテは掃除が上手ですから、あとで一緒にすれば大丈夫ですよ。二人でご飯を作って食べたら、動画を見ましょうね。忘れていた恋人の記憶を取り戻し、二人が結ばれるいい映画があるのです」
分身さんがウキウキしたご様子で今後の予定を教えて下さるので、全てお任せすることにしました。分身さんは私の手を握ったり撫でたりして下さって。
「小さくて可愛い手ですね」
愛おしそうに褒めて下さいます。私は分身さんの大きな御手をじっと見つめていました。
「こうしてほしいですか」
分身さんがその御手を横にして私の両目を覆って下さると、不思議と安心できる気がします。私はしばらく安全な暗闇の中にいさせて頂いて。癒やされていました。
「私にとってあなたがどれほど大切か、わかりますか」
分身さんは私の目に御手を当てて下さったまま、さりげないご様子でお尋ねになりました。
「本体は、遠い異国にいるあなたを見守るために私を作りました。ルイス・マイヤーが護っているのですから身の危険の心配ではありません。ただあなたを見ていたかったからです」
私は目を閉じたまましばらく考えていましたが、ご質問の答えはわからなくて。ぼんやりしておりました。
「毎日あなたを見つめることが私の使命でした。あなたがいなければ私は存在していなかったでしょう。あなたは私の命です」
「は、はい……」
私は慎重にうなずきながら、ただ圧倒されておりました。とても責任重大な気がして。身の引き締まる思いが致します。分身さんはリラックスなさったご様子で私と共にいて下さいましたが
「ちょっと待ってて下さい」
どのくらい経った頃でしょう。ふとそう仰って、私の顔から御手を離されると立ってお部屋を出て行かれました。私はお手洗いかな? などとのんきに考えておりましたが、分身さんはなかなか戻ってこられず、お部屋に戻られた後もむっつりと押し黙ってしまわれて、しばらく何も話されません。
「すみませんね、リテのせいではないのですが。ちょっと不快なことがありまして」
元のように私の背後に座って下さると、分身さんは不安そうな私を気遣って下さいました。
「本体には黙っていろと言われましたが、許せないので話しますね。先ほど本体の職場にある女性が出現しました。昔本体と接触のあった女性のようで、本体との結婚を要求しています」
私はしばらくぼんやりしながら、分身さんのお言葉を伺っていました。
「この国では、義務さえ果たせば妻は複数持てます。本体がどうするかはわかりませんが」
「……私は、出ていきましょうか」
「どこへですか」
私が何気なくお尋ねすると、分身さんは怒ったご様子で私をグッと抱き寄せられました。
「絶対どこにも行かせません。本体がどのような女性を愛そうと。私はあなたしか愛しません」
ほとんど義務のような口調で、分身さんはそう仰いました。
◇◇◇
「本体があなたを見初めたのはあなたが六歳の頃だそうです。そのとき本体は十四歳でした」
分身さんは少しだけお昼を召し上がられると、食後のお茶を飲まれながらお話して下さいました。
「私はその頃のあなたを知りません。本体はまだ魔法が使えなかったので、私を作れなかったのです。本体が私を作ったのは十七歳の時でした。その頃の本体は非常に荒れていまして。言い寄ってくる女性なら誰とでも関係を持っていました」
分身さんはあまり良い思い出ではないのか、眉根を寄せて前方を見つめられました。
「女性たちに誘われ、悪いクスリを覚えたのもその頃です。本体が二十歳になってもあなたはまだ十二歳ですから。どうしても手を出せないイライラが募ったようですが、それにしてもひどい有様でした」
ゼオラさんご自身も苦しまれたのでしょうが、五感が繋がっておられるという分身さんもさぞ苦しまれたのだろうと私は思いました。私を見守るために作られたと仰せでしたが……私は何も知らず、何のお力にもなれなかったことを悲しく思いました。
「あの頃の人間と未だに付き合いがあるのかと思うと私は腹立たしいです。本体を殴りたい気分です」
分身さんがグッと拳を握られそう仰るので、私はその拳にそっと手をおいてしまいました。
「他の妻を娶るつもりはないと本体は言っています。何か弁解があるのでしょう」
分身さんは私の手を取って下さるとソファに移動なさり、予定通りおすすめの映画を見せて下さいました。記憶を失くした男性と傍で支え続けた女性が最後には結ばれるお話で。分身さんは私をギュッと抱きしめながら最後まで手を握って下さいました。