気がつくといつものお部屋に戻して頂いていて。私は綺麗な靴を脱いでクロゼットにしまいました。ゼオラさんとルイスさんのお姿がまだ瞼の裏に焼き付いて。お二人のご無事が心配です。
「あの二人なら心配ないですよ。実況しましょうか」
分身さんは私が黒いヴェールを脱ぐのを手伝って下さると、微笑んで仰いました。
「本体は雷使いですから、何にでも雷を落とせます。空も飛べますし。ルイス・マイヤーは斬爪《ざんそう》という武器を腕にはめて縦横無尽に切り裂きます。彼らが死ぬことはまずありません」
「そうですか……」
私は感心してうなずきながら、お二人が大変お強いようだということは理解しました。
「乗客の方々は……?」
「客船の前方に怪しい船影が見えまして。漁船にしては大きいようです。海賊船かもしれませんが、バルト・アルマンも強いですから心配ないでしょう」
「そうなんだよね、俺も強いんだ」
その時私の目の前に泉のように水が湧き上がって。人の形を成し、バルトさんがすっと出現されました。私はあまりのことに声も出せず驚いてしまって。思わずその場にへたり込んでしまいました。
「なるほど、こちらが狙いですか」
分身さんが瞬時に動かれ、私を背にかばって下さって。バルトさんをじっと睨みつけられました。バルトさんは分身さんに遮られても意に介されないご様子で、私の顔をじっと覗き込まれました。
「顔はまあまあだね」
黒い御髪に深海のような蒼い瞳をなさっておられて。
「やっぱり美味そう」
私を見ると舌なめずりなさって、にっこり微笑まれます。私は怖くて、震える体を何とか支えていました。腰が完全に抜けてしまって。一歩も動くことができません。
「君は何ができるの? コピーくん」
バルトさんは私の怯えた様子に満足なさったのか、分身さんに目を向けられました。
「パワーはゼオラさんの半分てとこかな。随分劣化したコピーなんだね。まあゼオラさんの魔法だからなあ」
俺に勝てるの? とバルトさんは可笑しそうに尋ねられます。
「浴槽に突っ込んで溺死させてやろうか、フクロウくん」
私は悲しく思って、涙目でバルトさんを見つめました。誰も傷つけないでほしくて……。バルトさんはそんな私の気持ちもご存知なのか、少し笑って仰いました。
「ゼオラさんが可哀想だから、手は出さないであげるね」
蒼い瞳を細められると、私をじっと見下ろされます。
「俺たち年も近いし、また会えるかもね」
「お前、殺すぞ」
その時、いつの間に戻られたのか、ゼオラさんが私のすぐ横に立たれ、バルトさんの喉元に光る長槍を突きつけておられて。
「お邪魔しました」
バルトさんはゼオラさんにフフフと微笑まれると、花瓶の水にするりと溶けて去ってしまわれました。
「あいつあんな悪くなってんのかよ……気い抜けねえな」
ゼオラさんはすっと長槍を消されると、ため息をつかれました。私は床にへたり込んだまま、まだ動くことができなくて。分身さんが手を貸して下さって、ようやくソファに座ることができます。
「本体とバルト・アルマンはどちらが強いのですか」
「真剣にやりあったことはねえからな」
分身さんのご質問に、ゼオラさんはしばし思案されました。
「リテがそばにいれば勝てるだろうが、庇いながら戦うのは無理だ。気が散る。何より俺が心置きなく戦える場所がねえ。海上ならあいつが有利だし」
険しいお顔で仰います。
「リテはどう思った? あいつ」
ゼオラさんのお尋ねに、私はしばらく何もお答えすることができませんでした。お二人とも、私が口を開くまでだいぶ待って下さって。
「怖かったです……」
私はやっとそれだけをお伝えします。十五歳と仰る通り、まだ成長途中のようにお見受けしました。成人なさったら、どれほどの力をお持ちになるのでしょう。
「なぜリテを狙ったのでしょうか」
「なぜって。リテ級《クラス》なら誰でも欲しがるよ」
分身さんの疑問に、ゼオラさんは少し苛ついたように反応なさいました。それから私のそばまで来て下さると
「ごめんな、怖い思いをさせて」
鍛え直すわ、と仰って私をそっと抱き寄せて下さいました。