投稿日: Sep 27, 2015 9:44:55 AM
午後1時30分の開場前から、来場者がつぎつぎと訪れて、
共命ホールのロビーは満員になりました。
このため、開場時間を早めて開扉し、入場が始まりました。
公演の来場者は、遠くは鳥取県の米子市からご夫婦や、
山口県週南市からのご婦人など県外からも大勢ありました。
地歌舞を見るため、毎年京都に足を運んでいるという佐伯区の婦人グループ、
着物を着てお出かけしようと公演にみえた着物アカデミーのみなさんも。
そして、演奏のピアノが聴きたい、ヴァイオリンが聴きたい、
尺八が、三絃が、とこだわりの愛好家の姿もちらほらと。
上の舞台にいちばん近い、舞台がよく観える上手側の東席と、
中央席のいちばん前から順に、瞬く間に座席は埋まっていきました。
170人の観客で開演を迎える盛況ぶりの公演となりました。
本願寺広島別院での「地歌舞に思いを添えて 鎮魂ヒロシマ70年」公演の
模様を写真でご覧いただきながらお伝えします。
1、最初の舞台は、「袖の露」
白糸のように細い契りも絶えて・・、と歌う倉橋文子の三絃にのせ、
古澤侑峯が恋の終りを思い知って、涙に袖を濡らす女人をしっぽりと舞います。
地歌舞 古澤侑峯 「袖の露」 三絃 倉橋文子
秋の夜長に眺める月さえ恨めしい。鳴く虫の音は涙を誘い、吹く風に恋の終りを知り、
思わず袖を濡らします。秋の美しい風情の中で、来なくなった人を懐かしみ、
涙する女人の心情を歌った曲で、少し艶っぽい地歌ですが、
この日は、追善曲としての舞台でした。
2、慰霊の曲 「祈りの鐘 ~尺八、ヴァイオリンとピアノのための」
広島市生まれの作曲家・藤原典子が「ヒロシマ」をテーマに書き下ろした曲です。
初演の2013年7月から2年の歳月を経てふたたび広島の地で、
広島ゆかりの3人の演奏家たちにより、演奏されました。
「祈りの鐘」 ピアノ:水入恵 ヴァイオリン:竹内ふみの 尺八:芦垣皋盟
作曲者が、鐘の音をイメージしたというピアノを弾くのは水入恵。
尺八は芦垣皋盟、ヴァイオリンは竹内ふみのでした。
遠方のため、この日来られなかった作曲者の藤原さんに代わって、
ご両親が会場に足を運んで下さったようすでした。
3、「残 月」 地歌を代表する追善曲
「いそーべぇーの~ 」と、低音での声がたやすくは出せないといわれる残月が次の演奏曲。
三絃は芦垣育子、尺八を芦垣皋盟の演奏で聞かせました。
「残月」 三絃:芦垣育子 尺八:芦垣皋盟
江戸時代の天明~享和のころ大阪で活躍した盲人の音楽家で、
自らも三味線を弾いた峰崎勾当の作曲です。
大阪宗右衛門町の門人の娘が夭死したのを悼んで作曲されたとされ、
200年以上前から歌い継がれてきた地歌の代表的な追善曲の演奏でした。
磯辺の松に月が隠れるように、信女はこの世を早くに去ってしまった。
いまは真如がどうしているか知る手掛かりさえない。
しかし月だけは巡って来て、追善供養の年忌の日になる。
一部割愛しての演奏でしたが、
追善の地歌のできばえを遺憾なく聞かせた演奏でした。
4、「月と揺籠のうた」 未来へつなぐ
艶歌の追善曲、鎮魂の曲、追善の地歌とつづいて、ヒロシマ70年の慰霊と鎮魂に
存分に浸ったところで、希望と未来へつながる子供の歌、愛の歌の演奏へと移りました。
ヴァイオリンは竹内ふみの、ピアノは水入恵。
「トロイメライ」「愛の賛歌」 ピアノ:水入 恵 ヴァイオリン:竹内ふみの
「トロイメライ」はシューマン作曲です。子供の情景というピアノ曲の中の一曲で、
小さな夢、という意味のタイトルでした。
モノー作曲の「愛の讃歌」は歌手エディットピアフによって世に出され、
有名になったシャンソン曲です。愛の歌として、広く世界に知られています。
「出た出た月が・・・」の歌い出しで知られる「月(つき)」は、唱歌。
そして、大人が聴いても心安らぐ名曲「ゆりかごの唄」は、北原白秋作詞の子守唄。
ふたつの曲を、幻想的なアレンジで未来へとつなぎました。
5、珠取海士 悲しくも激しい母の愛
最後は「珠取海士」。地歌舞は古澤侑峯。
三弦の倉橋文子が歌い、名手が舞いました。
子のために命を惜しまぬ母の愛と、珠を取り返し海上へ浮かび上がる海士の
壮絶な場面と表現が見どころの、悲しくも激しい追善供養の地歌舞です。
静寂の中に裾引きのかすかな擦り音をしのばせて、
籠を手にした古澤侑峯がゆる~り舞台中央に進みます。
「珠取海士」の始まりです。
地歌舞:古澤侑峯 三弦:倉橋文子 地歌舞「珠取海士」
「一つの利剣を抜きもって かの海底に飛びいれば
空は一つに雲の波 煙の波をしのぎつつ
海満々と分け入りて 直下と見れども底もなく・・・」
「・・・約束の縄を動かせば 人々喜び引き上げたりけり
珠は知らずあま人は 海上に浮かび出でにけり。」
海底にもぐるところから、珠を取りもどし、
海上に浮かび上がるまでの、
一連の海中での舞いの表現がなんともスリリングです。
地歌舞には珍しい所作の大きな舞で、
優雅な舞のなかに壮絶なドラマが繰り広げられる舞台に、
会場を埋めた170人の観客は、酔いしれていました。
悲しくも激しい追善供養の地歌舞で、鎮魂 ヒロシマ70年の
Den10の会5周年記念公演は、みごとに終了いたしました。
6、Den10の会5周年記念公演に寄せられた メッセージ
「地歌舞に思いを添えて ~鎮魂 ヒロシマ70年~」公演によせて
古澤流宗家二代目家元 古澤 侑峯
七十年前の広島を思うと、心が痛みます。
せめて、戦争の事を忘れない、そして語り伝えていくことが、
残された者の使命だと存じております。
秋の美しい風情に悲しみをそえる地歌(じうた)「袖の露」は、
追善としても舞われる曲ですので、鎮魂と追悼の気持ちを込めて舞わせて頂きます。
もう一つの曲は能の「海士(あま)」から取材した地歌「珠取海士(たまとりあま)」。
心を強く持って龍と闘い、そして死を超えて再生したと言われる海士の物語に、
未来への希望を託して舞わせて頂きたいと考えております。
この意味深い会に出演する機会を与えていただきました事に大変感謝いたしております。
7、来場者の感想と 報告のおまけ
「地歌舞に思いを添えて 鎮魂 ヒロシマ70年」公演の
来場者の声をまとめています。
公演の感想特集はこちらでご覧ください。(近日公開。しばらくお待ちください)
報告の おまけもあります。