投稿日: Apr 06, 2016 6:36:9 AM
円山公園の枝垂桜
京都駅から、地下鉄烏丸線の御池駅で下車。
狭い小路の両替町通り(りょうがえまちどおり)を上ると、お目当ての町家です。
町家に着く頃には雨も上がり、もう降る心配はなさそうで、
ご一緒した人は、
「やはり着物で来ればよかった」
と、悔やむことしきりでした。
京都町家のフレンチ・カフェで食事をして、地歌舞を観る旅をしてきました。
しばらく足を運んでいなかった京都へ、花咲きほこる清明のころの旅でした。
前日までの春霖がまだ残る朝、お天気を気にしながらの旅立ちです。
ご一緒したかたは雨の心配をして、着物でのお出かけを断念したそうです。
ふたりが目指すは、和のふれんちをする京の町家です。
心安らぐ坪庭と座敷。そこで舞われるふたつの恋の舞。
想い描くだけで、春の心がいっそう浮き立ちます。
会場:たま妓(たまき、京都市中京区) 地歌舞を舞う座敷と中庭
「舞とお食事の会」お昼の部が、やがて始まり、
家元古澤侑峯が「まてどくらせど」と「古道成寺」を舞います。
演奏はヤススキーの創作楽器。
どちらも広島の公演でも舞ってもらった演目ですが、
観客として観るのは初めてのこと。
静止した古澤侑峯の立ち姿は、なびく柳のたおやかさがあります。
指先まで神経が届いているかのような手指の動きと扇のしなり。
静と動の絶妙な間合いに惹かれながらも、凝視していました。
眼光鋭く遠くをみつめたかと思えば、憂いを含んだ訴える目元に。
うなじには薄っすら浮かぶ汗さえ・・・。
いつしか眼の前の地歌舞の物語に引き込まれていました。
竹久夢二のはかない恋物語をえがいた「まてどくらせど」。
清姫の炎と燃える執念と化す「古道成寺」。
対照的な二つの恋を、名手古澤侑峯がみごとに舞い分けました。
広島から参加した観客は、もう一組あったので、早く席に着いた私たちが
席を確保しておいたのですが、地歌舞が始まっても来ないのです。
そう広くはない会場の前方の見やすい場所を陣取っていたので、
他の来場者に申し訳なく、今か今かと待てども現れません。
まさに「まてどくらせど」来ぬ人です。
辛い待つ身に成り果てた頃、ようやく到着。
「古道成寺」の後半だけは、なんとか鑑賞できました。
開演時間を勘違いしおまけに道に迷っていたそうです。
来場のみなさま、主催者のみなさま、
ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。
そんな、ハプニングもありましたが、いよいよ和のふれんち。
最初に並んだのは、野菜のオードブル。
そのあとは、スープ。
その日の魚とお肉の料理、胚芽パンとオリーブオイル。
デザート、珈琲。
と、次々目の前のお膳に並びました。
野菜のオードブルが最初
築100年の元呉服商の京町家を改装したお食事処です。
伝統ある京の町家に心を惹かれた望月まり子さんが
10年前(?)に東京から移り住んで女将をはじめ、
職育・健康・医食同源をテーマに、
食材にこだわりるお店として切り盛りしています。
ビールで始まって、赤ワインへとお酒もすすみ、
上品なお料理が運ばれてくるなか、同席の二人と文化談義が弾みました。
お一方は「京雅の遊び」人の中井信男さん。名刺にそう記されていました。
もう一人は土谷政子さんで、若いが日中の貿易を手がける会社の代表。
中井さんは着物業界コーディネーター。
着物卸商社に長年つとめていた実績で着物めきき士に。
茶人で華道に長け、伝統文化の講演の依頼が絶えません。
このため81歳の今も、着物姿で京都の町を自転車に乗り走りまわっていらっしゃる。
そこで、忙しくって、思わず口をついて出る言葉が、
「忙しくって、死んでるまなんかないよ」。
だ、そうです。
ウイットにあふれた、元気いっぱいの81歳でした。
伝統の町京都には、中井さんのような経験に裏打ちされた知恵者・文化人が、
ほかにも多勢いらっしゃって、層の厚さと豊かな蓄積が、
京の町の風土と風格を形づくっているのだと感じました。
美味しい料理と愉快な話題の楽しい時間は、瞬く間です。
やがてお昼の部がお開きとなり、せっかくの京都でしたから
はやる心を抑えきれず、さくらを見に行きました。
高瀬川を勧められ、タクシーで。
川沿いの木屋町通りは、そぞろ歩きのさくら見物客。
吹く風に、川面にさくら吹雪が舞うさまは京都ならではの風情です。
高瀬川の桜並木(木屋町通り)
四条通りから円山公園に向かい、祇園の枝垂れ桜に会いに行きました。
まるで天から下がっているかのようにこんもりした枝垂れの桜花を見上げて、
感歎したのが30年ほど前のこと。
その後、樹勢が衰えたか桜花が消え、枝垂れも短く消えかかり、
黒々とした幹ばかりが目立った無残な姿だった10年前。
歳月を重ねて久々に会う思い出の桜です。
八坂神社の坂を登り近づくにつれ、
華やかなさんざめきに、枝垂れ桜の復活を予感しました。
黒々とした太い幹のあちこちから、枝が新芽を吹きだし、
淡い紅色の桜花をつけています。誇らしげです。
隆盛の時ほどの勢いには、まだまだ及びませんが、
風に揺れる祇園の枝垂れ桜に、おおきく安堵しました。
伸びかけの枝垂れの桜を、30年前と同じように見上げながら、
「よく頑張ったね。復活したね」
と、ねぎらってやりました。
祇園の枝垂れ桜(円山公園)
ときは春。春は桜。
ひとは桜の花を見るのではない。
花に重ねて己の歩んだ人生を見るのである。
祇園の枝垂れ桜を見上げながら、来し方を思った。
=== 舞と和のふれんち ====
地歌舞 「まてどくらせど」 「古道成寺」
地歌舞: 古澤侑峯(古澤流宗家二代目家元)
演 奏: ヤススキー(創作楽器)
とき: 4月4日(月) お昼の部
午前11時30分開場、12時開演,
昼食は12時半から1時間。
会場: 和のふれんち たま妓 075-213-4177
京都市中京区両替町通二条下ル金吹町472の1