君(きみ)の女(むすめ)よ なんぢの足は鞋(くつ)の中にありて如何(いか)に美(うる)はしきかな 汝(なんぢ)の腿(もゝ)はまろらかにして玉のごとく 巧匠(たくみ)の手にて作りたるがごとし
なんぢの臍(ほぞ)は美酒(よきさけ)の缺(かく)ることあらざる圓(まる)き杯盤(さかづき)のごとく なんぢの腹(はら)は積(つみ)かさねたる麥(むぎ)のまはりを百合花(ゆり)もてかこめるが如(ごと)し
なんぢの兩乳房(もろちぶさ)は牝鹿(めじか)の雙子(ふたご)なる二(ふたつ)の小鹿(こじか)のごとし
なんぢの頸(うなじ)は象牙(ざうげ)の戍樓(やぐら)の如(ごと)く 汝(なんぢ)の目はヘシボンにてバテラビムの門のほとりにある池のごとく なんぢの鼻はダマスコに對(むか)へるレバノンの戍樓(やぐら)のごとし
なんぢの頭(かしら)はカルメルのごとく なんぢの頭(かしら)の髪は紫色(むらさき)のごとし 王その垂(たれ)たる髪につながれたり
あゝ愛よ もろもろの快樂(たのしみ)の中(うち)にありてなんぢは如何(いか)に美(うる)はしく如何(いか)に悦(よろこ)ばしき者なるかな
なんぢの身の長(たけ)は棕櫚(しゆろ)の樹に等しく なんぢの乳房(ちぶさ)は葡萄(ぶだう)のふさのごとし
われ謂(おも)ふこの棕櫚(しゆろ)の樹にのぼり その枝に執(とり)つかんと なんぢの乳房(ちぶさ)は葡萄(ぶだう)のふさのごとく なんぢの鼻の氣息(いき)は林檎(りんご)のごとく匂(にほ)はん
なんぢの口は美酒(よきさけ)のごとし わが愛する者のために滑(なめら)かに流れくだり 睡(ねむ)れる者の口をして動かしむ
われはわが愛する者につき 彼はわれを戀(こひ)したふ
わが愛する者よ われら田舍(いなか)にくだり 村里に宿(やど)らん
われら夙(つと)におきて葡萄(ぶだう)や芽(めざ)しゝ莟(つぼみ)やいでし石榴(ざくろ)の花やさきし いざ葡萄園(ぶだうぞの)にゆきて見ん かしこにて我わが愛をなんぢにあたへん
戀茄(こひなす)かぐはしき香氣(にほひ)を發(なは)ち もろもろの佳(よ)き果物(くだもの)古き新らしき共にわが戸の上にあり わが愛する者よ我これをなんぢのためにたくはへたり