伶長(うたのかみ)にうたはしめたるコラの子のうた
もろもろの民よきけ賤(いやし)きも貴(たふと)きも富(とめ)るも貧(まづし)きもすべて地にすめる者よ なんぢらともに耳をそばだてよ
わが口はかしこきことをかたり わが心はさときことを思はん
われ耳を喩言(たとへ)にかたぶけ琴(こと)をならしてわが幽玄(かすか)なる語(ことば)をときあらはさん
わが踵(くびす)にちかゝる不義のわれを打圍(うちかこ)むわざはひの日もいかで懼(おそ)るゝことあらんや
おのが富(とみ)をたのみ財(たから)おほきを誇(ほこ)るもの
たれ一人おのが兄弟をあがなふことあたはず之(これ)がために贖價(あがなひしろ)を神にさゝげ
之(これ)をとこしへに生存(いきながら)へしめて朽(くち)ざらしむることあたはず(霊魂(たましひ)をあがなふには費(つひえ)いとおほくして此事(このこと)をとこしへに捨置(すておか)ざるを得(え)ざればなり)
そは智(かしこ)きものも死(しに) おろかものも獣心者(しれもの)もひとしくほろびてその富(とみ)を他人(あだしびと)にのこすことは常にみるところなり
かれら竊(ひそか)におもふ わが家はとこしへに存(のこ)りわがすまひは世々にいたらんと かれらはその地におのが名をおはせたり
されど人は譽(ほまれ)のなかに永(なが)くとゞまらず亡(ほろ)びうする獣(けもの)のごとし
斯(かく)のごときは愚(おろ)かなるものの途(みち)なり 然(しか)はあれど後人(のちのひと)はその言(ことば)をよしとせん セラ
かれらは羊(ひつじ)のむれのごとくに陰府(よみ)のものと定(さだ)めらる 死これが牧者(ぼくしゃ)とならん直(なほ)きもの朝(あした)にかれらををさめん その美容(うるはしき)は陰府(よみ)にほろぼされて宿(やど)るところなかるべし
されど神われを接(うけ)たまふべければわが霊魂(たましひ)をあがなひて陰府(よみ)のちからより脱(まぬ)かれしめたまはん セラ
人のとみてその家のさかえくはゝらんとき汝(なんぢ)おそるるなかれ
かれの死(しぬ)るときは何一つたづさへゆくことあたはず その榮(さかえ)はこれにしたがひて下(くだ)ることをせざればなり
かゝる人はいきながらふるほどに己(おの)がたましひを祝(しゆく)するとも みづからを厚(あつ)うするがゆゑに人々なんぢをほむるとも
なんぢ列祖(おやたち)の世にゆかん かれらはたえて光をみざるべし
尊貴(たふとき)なかにありて暁(さと)らざる人はほろびうする獣(けもの)のごとし