百合花(ゆりのはな)のしらべにあはせて伶長(うたのかみ)にうたはしめたるコラの子のをしへのうた 愛のうた
わが心はうるはしき事にてあふる われは王のために詠(よみ)たるものをいひいでん わが舌はすみやけく寫字人(ものかくひと)の筆(ふで)なり
なんぢは人の子輩(こら)にまさりて美(うるは)しく文雅(みやび)そのくちびるにそゝがる このゆゑに神はとこしへに汝をさいはひしたまへり
英雄(ますらを)よなんぢその劍(つるぎ)その榮(さかえ)その威(ゐ)をこしに佩(おぶ)べし
なんぢ眞理(まこと)と柔和(にうわ)とたゞしきとのために威(ゐ)をたくましくし勝をえて乗(のり)すゝめ なんぢの右手なんぢに畏(おそ)るべきことををしへん
なんぢの矢は鋭(とく)して王のあたの胸をつらぬき もろもろの民はなんぢの下(もと)にたふる
神よなんぢの寳座(みくら)はいやとほ永(なが)くなんぢの國(くに)のつゑは公平のつゑなり
なんぢは義をいつくしみ惡をにくむ このゆゑに神なんぢの神はよろこびの膏(あぶら)をなんぢの侶(とも)よりまさりて汝にそゝぎたまへり
なんぢの衣(ころも)はみな没薬(もつやく)蘆薈(ろくわい)肉桂(にくけい)のかをりあり 琴瑟(をごと)の音(ね)ざうげの諸殿(とのどの)よりいでて汝をよろこばしめたり
なんぢがたふとき婦(をんな)のなかには もろもろの王のむすめあり 皇后(きさき)はオフルの金(こがね)をかざりてなんぢの右にたつ
女(むすめ)よきけ目をそゝげ なんぢの耳をかたぶけよ なんぢの民となんぢが父の家とをわすれよ
さらば王はなんぢの美麗(うるはしき)をしたはん 王はなんぢの主(しゆ)なりこれを伏拝(ふしをが)め
ツロの女(むすめ)は贈物をもてきたり民間(たみのなか)のとめるものも亦(また)なんぢの惠(めぐみ)をこひもとめん
王のむすめは殿のうちにていとゞ榮(さか)えかゞやき そのころもは金(こがね)をもて織(おり)なせり
かれは鍼繍(ぬひもの)せる衣(ころも)をきて王のもとにいざなはる 之(これ)にともなへる處女(をとめ)もそのあとにしたがひて汝のもとにみちびかれゆかん
かれらは歓喜(よろこび)と快樂(たのしみ)とをもていざなはれ斯(かく)して王の殿(との)にいらん
なんぢの子らは列祖(おやたち)にかはりてたち なんぢはこれを全地に君(きみ)となさん
我(われ)なんぢの名をよろづ代(よ)にしらしめん この故(ゆゑ)にもろもろの民はいやとほ永(なが)くなんぢに感謝すべし