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我はこの一切（すべて）の事に心を用（もち）ひてこの一切（すべて）の事を明（あきら）めんとせり 即（すなは）ち義（たゞし）き者と賢（かしこ）き者およびかれらの爲（なす）ところは神の手にあるなるを明（あきら）めんとせり 愛（いつくし）むや惡（にく）むやは人これを知ることなし一切（すべて）の事はその前（さき）にあるなり
諸（すべて）の人に臨（のぞ）む所は皆同じ 義（たゞし）き者にも惡（あし）き者にも善者（よきもの）にも 浄者（きよきもの）にも穢（けが）れたる者にも 犠牲（いけにへ）を献（さゝ）ぐる者にも犠牲を献げぬ者にもその臨（のぞ）むところの事は同一（ひとつ）なり 善人（よきひと）も罪人（つみびと）に異ならず 誓（ちかひ）をなす者も誓（ちかひ）をなすことを畏（おそ）るゝ者に異ならず
諸（すべて）の人に臨（のぞ）むところの事の同一（ひとつ）なるは是（これ）日の下におこなはるゝ事の中の惡（あし）き者たり 抑（そもそも）人の心には惡（あし）き事充（みち）をり その生（いけ）る間は心に狂妄（きやうもう）を懐（いだ）くあり 後（のち）には死者（しにしもの）の中（うち）に往（ゆ）くなり
凡（およそ）活（いけ）る者の中に列（つらな）る者は望（のぞみ）あり 其（そ）は生（いけ）る犬は死（しせ）る獅子（しゝ）に愈（まさ）ればなり
生者（いけるもの）はその死（しな）んことを知る 然（され）ど死（しね）る者は何事をも知（しら）ずまた應報（むくい）をうくることも重（かさね）てあらず その記憶（おぼえ）らるゝ事も遂（つひ）に忘れらるゝに至る
またその愛（いつくしみ）も惡（にくしみ）も嫉（ねたみ）も既（すで）に消（きえ）うせて彼等は日の下におこなはるゝ事に最早（もはや）何時までも關係（かゝはる）ことあらざるなり
汝（なんぢ）往（ゆき）て喜悦（よろこび）をもて汝のパンを食ひ樂（たのし）き心をもて汝の酒を飮め 其（そ）は神久しく汝の行爲（わざ）を嘉納（よみし）たまへばなり
汝の衣服（ころも）を常に白からしめよ 汝の頭（かしら）に膏（あぶら）を絶（たえ）しむるなかれ
日の下に汝が賜（たま）はるこの汝の空（くう）なる生命（いのち）の日の間 汝その愛する妻とともに喜びて度生（くら）せ 汝の空（くう）なる生命の日の間しかせよ 是（これ）は汝が世にありて受（うく）る分汝が日の下に働ける勞苦（らうく）によりて得（う）る者なり
凡（すべ）て汝の手に堪（たふ）ることは力をつくしてこれを爲（な）せ 其（そ）は汝の往（ゆか）んところの陰府（よみ）には工作（わざ）も計謀（はかりごと）も知識も智慧（ちゑ）もあることなければなり
我また身をめぐらして日の下を観（み）るに 迅速者（ときもの）走ることに勝（かつ）にあらず強者（つよきもの）戦争（たゝかひ）に勝にあらず 智慧者（かしこきもの）食物を獲（うる）にあらず 明哲人（さときひと）財貨（たから）を得（うる）にあらず 知識人（ものしりびと）恩顧（めぐみ）を得（うる）にあらず 凡（すべ）て人に臨（のぞ）むところの事は時ある者偶然なる者なり
人はまたその時を知（しら）ず 魚の禍（わざはひ）の網にかゝり鳥の鳥羅（とりあみ）にかゝるが如（ごと）くに世の人もまた禍患（わざはひ）の時の計（はか）らざるに臨（のぞ）むに及びてその禍患（わざはひ）にかゝるなり
我（われ）日の下に是事（このこと）を観（み）て智慧（ちゑ）となし大（おほい）なる事となせり
すなはち茲（こゝ）に一箇（ひとつ）の小（ちひさ）き邑（まち）ありて その中の人は鮮（すくな）かりしが大（おほい）なる王これに攻（せめ）きたりてこれを圍（かこ）みこれに向ひて大（おほい）なる雲梯（うんてい）を建（たて）たり
時に邑（まち）の中に一人の智慧（ちゑ）ある貧（まづ）しき人ありてその智慧をもて邑（まち）を救（すく）へり 然（しか）るに誰ありてその貧しき人を記念（おもふ）もの無（なか）りし
是（こゝ）において我（われ）言（いへ）り智慧（ちゑ）は勇力（ちから）に愈（まさ）る者なりと 但（たゞ）しかの貧しき人の智慧は藐視（かろんぜ）られその言詞（ことば）は聴（きか）れざりしなり
静（しづか）に聴（きけ）る智者（ちしや）の言（ことば）は愚者（ぐしや）の君長（つかさ）たる者の號呼（よばはり）に愈（まさ）る
智慧（ちゑ）は軍（いくさ）の器（うつは）に勝（まさ）れり一人の惡人は許多（あまた）の善事（よきわざ）を壊（そこな）ふなり
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