エリフまた言詞(ことば)を繼(つぎ)て曰(いは)く
暫(しば)らく我に容(ゆる)せ我なんぢに示すこと有(あら)ん尚(なほ)神のために言ふべき事あればなり
われ廣(ひろ)くわが知識を取り我の造化主(つくりぬし)に正義(たゞしき)を歸(き)せんとす
わが言語(ことば)は眞實(まこと)に虚僞(いつはり)ならず知識の完全(まつた)き者なんぢの前にあり
視(み)よ神は權能(ちから)ある者にましませども何をも藐視(いやし)めたまはず その了知(さとり)の權能(ちから)は大(おほい)なり
惡(あ)しき者を生(いか)し存(おか)ず艱難者(なやめるもの)のために審判(さばき)を行ひたまふ
義(たゞ)しき者に目を離さず位(くらゐ)にある王等(わうたち)とともに永遠(とこしへ)に坐(ざ)せしめて之(これ)を貴(たふと)くしたまふ
もし彼ら鏈索(くさり)に繋(つな)がれ艱難(なやみ)の繩(なは)にかゝる時は
彼らの所行(おこなひ)と愆尤(とが)とを示してその驕(おご)れるを知(しら)せ
彼らの耳を開きて敎(をしへ)を容(いれ)しめ かつ惡を離れて歸(かへ)れよと彼らに命じたまふ
もし彼ら聽(きゝ)したがひて之(これ)に事(つか)へなば繁昌(さかえ)てその日を送り樂しくその年を渉(わた)らん
若(もし)かれら聽(きゝ)したがはずば刀劍(つるぎ)にて亡(ほろ)び 知識を得(え)ずして死なん
しかれども心の邪曲(よこしま)なる者等(ものども)は忿怒(いかり)を蓄(たく)はへ神に縛(いま)しめらるゝとも祈ることを爲(せ)ず
かれらは年わかくして死亡(しにう)せ男娼(なんしゃう)とその生命(いのち)をひとしうせん
神は艱難者(なやめるもの)を艱難(なやみ)によりて救(すく)ひ之(これ)が耳を虐遇(しへたげ)によりて開きたまふ
然(され)ば神また汝を狹(せま)きところより出(いだ)して狹(せま)からぬ廣(ひろ)き所に移したまふあらん 而(しか)して汝の席に陳(つら)ぬる物は凡(すべ)て肥(こえ)たる物ならん
今は惡人の鞫罰(さばき)なんぢの身に充(みて)り審判(さばき)と公義(こうぎ)となんぢを執(とら)ふ
なんぢ忿怒(いかり)に誘(さそ)はれて嘲笑(あざけり)に陷(おち)いらざるやう愼(つゝ)しめよ收贖(あがなひ)の大(おほい)なるが爲(ため)に自(みづか)ら誤(あやま)るなかれ
なんぢの號叫(さけび)なんぢを艱難(なやみ)の中(うち)より出(いだ)さんや如何(いか)に力を盡(つく)すとも所益(かひ)あらじ
世の人のその處(ところ)より絶(たゝ)るゝ其(その)夜を慕(した)ふなかれ
愼(つゝ)しみて惡に傾(かた)むくなかれ汝は艱難(なやみ)よりも寧(むし)ろ之(これ)を取(とら)んとせり
それ神はその權能(ちから)をもて大(おほい)なる事(わざ)を爲(な)したまふ誰か能(よ)く彼のごとくに敎晦(をしへ)を埀(たれ)んや
たれか彼のためにその道を定めし者あらんや誰かなんぢは惡(あし)き事をなせりと言ふことを得(え)ん
なんぢ神の御所爲(みわざ)を讚歎(ほめたゝ)ふることを忘れざれ これ世の人の歌ひ崇(あが)むる所なり
人みな之(これ)を仰(あふ)ぎ觀(み)る 遠き方(ところ)より人これを視(み)たてまつるなり
神は大(おほい)なる者にいまして我儕(われら)かれを知(しり)たてまつらず その御年(みとし)の數(かず)も計(はか)り知るべからず
かれ水を細(こまか)にして引(ひき)あげたまへば霧の中に滴(したゝ)り出(いで)て雨となるに
雲これを降(ふら)せて人々の上に沛然(ゆたか)に灌(そゝ)ぐなり
たれか能(よ)く雲の舒展(ひろが)る所以(ゆゑん)またその幕屋(まくや)の響(ひゞ)く所以(ゆゑん)を了知(さとら)んや
視(み)よ彼その光明(ひかり)を自己(おのれ)の周圍(まはり)に繞(めぐ)らし また海の底をも蔽(おほ)ひたまひ
これらをもて民を鞫(さば)き また是等(これら)をもて食物(くひもの)を豐饒(ゆたか)に賜(たま)ひ
電光(いなびかり)をもてその兩手(もろて)を包み その電光(いなびかり)に命じて敵を撃(うた)しめたまふ
その鳴聲(なりおと)かれを顯(あら)はし家畜(かちく)すらも彼の來ますを知らすなり