ダビデ、ノブにゆきて祭司アヒメレクにいたるアヒメレク懼(おそ)れてダビデを迎へこれにいひけるは汝なんぞ獨(ひとり)にして誰も汝とともならざるや
ダビデ祭司アヒメレクにいふ王(わう)我に一(ひとつ)の事を命じて我にいふ我(わ)が汝を遣(つか)はすところの事およびわが汝に命じたる所については何をも人にしらするなかれと我(われ)某處(それのところ)に我(わが)少者(わかもの)を出(いだし)おけり
いま何か汝の手にあるや我(わが)手に五(いつゝ)のパンか或(あるひ)はなににてもある所を與(あたへ)よ
祭司ダビデに對(こたへ)ていひけるは常のパンはわが手になしされど若(も)し少者(わかきもの)婦女(をんな)をだに愼(つゝし)みてありしならば聖(きよ)きパンあるなりと
ダビデ祭司に對(こた)へていひけるは實(まこと)にわがいでしより此(この)三日は婦女(をんな)われらにちかづかず且(かつ)少者等(わかきものら)の器(うつは)は潔(きよ)し又パンは常(つね)の物のごとし今日器(うつは)に潔(きよ)きパンあれば殊(こと)に然(しかり)と
祭司かれに聖(きよ)きパンを與(あたへ)たり其(そ)はかしこに供前(そなへ)のパンの外(ほか)はパン无(なか)りければなり即(すなは)ち其(その)パンは下(さげ)る日に熱きパンをさゝげんとて之(これ)をヱホバのまへより取(とり)されるなり
其日(そのひ)かしこにサウルの僕(しもべ)一人留(とゞ)められてヱホバのまへにあり其名(そのな)をドエグといふエドミ人(びと)にしてサウルの牧者(ぼくしゃ)の長(かしら)なり
ダビデまたアヒメレクにいふ此(こゝ)に汝の手に槍(やり)か劍(かたな)あらぬか王の事(こと)急なるによりて我は刀も武器も携(たづさ)へざりしと
祭司いひけるは汝がエラの谷にて殺したるペリシテ人(びと)ゴリアテの劍(かたな)布に裏(つゝ)みてエポデの後(うしろ)にあり汝もし之(これ)をとらんとおもはゞ取れ此(こゝ)にはほかの劍(かたな)なしダビデいひけるはそれにまさるものなし我にあたへよと
ダビデ其日(そのひ)サウルをおそれて立(たち)てガテの王アキシのところに逃げゆきぬ
アキシの臣僕(しもべ)アキシに曰(いひ)けるは此(これ)は其(その)地の王ダビデにあらずや人々舞踏(をどり)のうちにこの人のことを歌ひあひてサウルは千(せん)をうちころしダビデは萬(まん)をうちころすといひしにあらずや
ダビデこの言(ことば)を心に蔵(をさ)め深くガテの王アキシをおそれ
人々のまへにて佯(いつはり)て其氣(そのき)を變(へん)じ執(とら)はれて狂人(きやうじん)のさまをなし門の扉に書(ものか)き其(その)涎沫(よだれ)を鬚(ひげ)にながれくだらしむ
アキシ僕(しもべ)に云(いひ)けるは汝らの見るごとく此人(このひと)は狂人なり何ぞかれを我にひき來(きた)るや
我なんぞ狂人(きゃうじん)を須(もち)ひんや汝ら此者(このもの)を引(ひき)きたりてわがまへに狂(くるは)しめんとするや此者(このもの)なんぞ吾(わ)が家にいるべけんや