汝(なんぢ)ヱホバの室(いへ)にいたる時にはその足を愼(つゝし)め 進みよりて聴聞(きく)は愚(おろか)なる者の犠牲(いけにへ)にまさる 彼等はその惡をおこなひをることを知(しら)ざるなり
汝(なんぢ)神の前にありては軽々しく口を開くなかれ 心を攝(をさ)めて妄(みだり)に言(こと)をいだすなかれ 其(そ)は神は天にいまし汝は地にをればなり 然(され)ば汝の言詞(ことば)を少(すくな)からしめよ
夫(それ)夢は事の繁多(しげき)によりて生(しやう)じ 愚(おろか)なる者の聲(こゑ)は言(ことば)の衆多(おほき)によりて識(し)るなり
汝(なんぢ)神に誓願(せいぐわん)をかけなば之(これ)を還(はた)すことを怠(おこた)るなかれ 神は愚(おろか)なる者を悦(よろこ)びたまはざるなり 汝はそのかけし誓願を還(はた)すべし
誓願(せいぐわん)をかけてこれを還(はた)さゞるよりは寧(むし)ろ誓願をかけざるは汝に善(よ)し
汝(なんぢ)の口をもて汝の身に罪を犯(をか)さしむるなかれ 亦(また)使者(つかひ)の前に其(それ)は過誤(あやまち)なりといふべからず 恐(おそら)くは神(かみ)汝の言(ことば)を怒り汝の手の所爲(わざ)を滅(ほろぼ)したまはん
夫(それ)夢多ければ空(くう)なる事多し 言詞(ことば)の多(おほ)きもまた然(しか)り 汝ヱホバを畏(かしこ)め
汝(なんぢ)國(くに)の中(うち)に貧(まづし)き者を虐遇(しへたぐ)る事および公道(おほやけ)と公義(たゞしき)を枉(まぐ)ることあるを見るもその事あるを怪(あやし)むなかれ 其(そ)はその位(くらゐ)高き人よりも高き者ありてその人を伺(うかゞ)へばなり又(また)其等(それら)よりも高き者あるなり
國の利益は全(まつた)く是(これ)にあり 即(すなは)ち王者(わうしや)が農事(のうじ)に勤(つと)むるにあるなり
銀(ぎん)を好む者は銀に飽(あく)こと無し 豊富(ゆたか)ならんことを好む者は得るところ有(あ)らず 是(これ)また空(くう)なり
貨財(もちもの)増せばこれを食(は)む者も増すなり その所有主(もちぬし)は唯(たゞ)目にこれを看(み)るのみ その外(ほか)に何の益(えき)かあらん
勞する者はその食(くら)ふところは多きも少きも快(こゝろよ)く睡(ねむ)るなり 然(しか)れども富者(とめるもの)はその貨財(もちもの)の多きがために睡(ねむ)ることを得(え)せず
我また日の下に患(うれへ)の大(おほい)なる者あるを見たり すなはち財寶(たから)のこれを蓄(たくは)ふる者の身に害をおよぼすことある是(これ)なり
その財寶(たから)はまた災難(わざはひ)によりて失落(うせゆく)ことあり 然(され)ばその人(ひと)子を挙(まうく)ることあらんもその手には何物もあることなし
人は母の胎(はら)より出(いで)て來(きた)りしごとくにまた裸體(はだか)にして皈(かへ)りゆくべし その勞苦(ほねをり)によりて得(え)たる者を毫厘(ひとつ)も手にとりて携(たづさ)へゆくことを得ざるなり
人は全くその來(きた)りしごとくにまた去(さり)ゆかざるを得ず 是(これ)また患(うれへ)の大(おほい)なる者なり 抑(そもそも)風を追(おふ)て勞する者何の益(えき)をうること有(あら)んや
人は生命(いのち)の涯(かぎり)黒暗(くらやみ)の中(うち)に食(くら)ふことを爲(な)す また憂愁(うれへ)多かり 疾病(やまひ)身にあり 憤怒(いかり)あり
視(み)よ我は斯(かく)観(み)たり 人の身にとりて善(ぜん)かつ美なる者は 神にたまはるその生命(いのち)の極(きはみ)食飮(くひのみ)をなし 且(かつ)その日の下に勞して働ける勞苦(らうく)によりて得るところの福禄(さいはひ)を身に享(うく)るの事なり是(これ)その分なればなり
何人(なにびと)によらず神がこれに富と財(たから)を與(あた)へてそれに食(はむ)ことを得(え)せしめ またその分を取りその勞苦によりて快樂(たのしみ)を得ることをせさせたまふあれば その事は神の賜物(たまもの)たるなり
かゝる人はその年齢(よはひ)の日を憶(おぼ)ゆること深からず 其(そ)は神これが心の喜ぶところにしたがひて應(こたふ)ることを爲(な)したまへばなり