わが氣息(いき)は已(すで)にくさり我日(わがひ)すでに盡(つき)なんとし墳墓(はか)われを待つ
まことに嘲弄者等(あざけるものども)わが傍(かたはら)に在(あ)り我目(わがめ)は彼らの辨爭(いひあらそ)ふを常に見ざるを得(え)ず
願(ねがは)くは質(ものしろ)を賜(たま)ふて汝みづから我の保證(うけあひ)となりたまへ誰か他(ほか)にわが手をうつ者あらんや
汝彼らの心を閉(とぢ)て悟(さと)るところ無(なか)らしめたまへり必ず彼らをして愈(まさ)らしめたまはじ
朋友(とも)を交付(わた)して掠奪(かすめ)に遭(あは)しむる者は其(その)子等(こども)の目(め)潰(つぶ)るべし
彼われを世の民(たみ)の笑柄(わらひぐさ)とならしめたまふ我は面(かほ)に唾(つばき)せらるべき者となれり
かつまた我(わが)目は憂愁(うれへ)によりて昏(くら)み肢體(からだ)は凡(すべ)て影のごとし
義(たゞ)しき者は之(これ)に驚き無辜者(つみなきもの)は邪曲(よこしま)なる者を見て憤(いきど)ほる
然(さり)ながら義(たゞ)しき者はその道を堅(かた)く持(たも)ち手の潔淨(いさぎよ)き者はますます力を得るなり
請(こ)ふ汝ら皆ふたゝび來(きた)れ我は汝らの中(うち)に一人も智(かしこ)き者あるを見ざるなり
わが日は已(すで)に過ぎ わが計(はか)る所わが心に冀(こひねが)ふ所は已(すで)に敗(やぶ)れたり
彼ら夜を晝に變(か)ふ黑暗(くらやみ)の前に光明(ひかり)ちかづく
我もし俟(まつ)ところ有(あら)ば是(これ)わが家たるべき陰府(よみ)なるのみ我は黑暗(くらやみ)にわが牀(とこ)を展(の)ぶ
われ朽腐(くさり)に向(むか)ひては汝はわが父なりと言ひ蛆(うじ)に向ひては汝は我(わが)母わが姉妹なりと言ふ
然(され)ばわが望(のぞみ)はいづくにかある我望(わがのぞみ)は誰かこれを見る者あらん
是(これ)は下りて陰府(よみ)の關(くわん)に到らん之(これ)と齊(ひと)しく我身(わがみ)は塵(ちり)の中に臥(ふし)靜まるべし