死(しに)し蝿(はひ)は和香者(かをりづくり)の膏(あぶら)を臭(くさ)くしこれを腐(くさ)らす 少許(すこし)の愚癡(ぐち)は智慧(ちゑ)と尊榮(ほまれ)よりも重し
智者(ちしや)の心はその右に愚者(ぐしや)の心はその左に行くなり
愚者は出(いで)て途(みち)を行(ゆく)にあたりてその心たらず自己(おのれ)の愚(ぐ)なることを一切(すべて)の人に告ぐ
君長(つかさ)たる者汝にむかひて腹(はら)たつとも汝の本處(ところ)を離るゝ勿(なか)れ 温順(をんじゅん)は大(おほい)なる愆(とが)を生ぜしめざるなり
我(われ)日の下に一(ひとつ)の患事(うれへ)あるを見たり是(これ)は君長(つかさ)たる者よりいづる過誤(あやまち)に似たり
すなはち愚(おろか)なる者高き位(くらゐ)に置かれ貴(たふと)き者卑(ひく)き處(ところ)に坐(すわ)る
我また僕(しもべ)たる者が馬に乗り王侯(きみ)たる者が僕(しもべ)のごとく地の上に歩(あゆ)むを観(み)たり
坑(あな)を掘る者はみづから之(これ)におちいり石垣を毀(こぼ)つ者は蛇(へび)に咬(かま)れん
石を打(うち)くだく者はそれがために傷を受け木を割る者はそれがために危難(あやうき)に遭(あは)ん
鐵(てつ)の鈍くなれるあらんにその刃を磨(とが)ざれば力を多く之(これ)にもちひざるを得(え)ず 智慧(ちゑ)は功(こう)を成(なす)に益(えき)あるなり
蛇(へび)もし呪術(まじなひ)を聴(きか)ずして咬(かま)ば呪術師(まじなひし)は用なし
智者の口の言語(ことば)は恩徳(めぐみ)あり 愚者の唇(くちびる)はその身を呑(のみ)ほろぼす
愚者(ぐしや)の口の言(ことば)は始(はじめ)は愚(おろか)なり またその言(ことば)は終(をはり)は狂妄(きやうもう)にして惡(あし)し
愚者は言詞(ことば)を衆(おほ)くす 人は後(のち)に有(あら)ん事を知(しら)ず 誰かその身の後にあらんところの事を述(のぶ)るを得(え)ん
愚者の勞苦(ほねをり)はその身を疲らす彼は邑(まち)にいることをも知(しら)ざるなり
その王は童子(わらべ)にしてその侯伯(きみたち)は朝(あした)に食をなす國よ 汝は禍(わざはひ)なるかな
その王は貴族(うまびと)の子またその侯伯(きみたち)は酔樂(ゑひたのし)むためならず力を補(おぎな)ふために適宜(ほどよ)き時に食をなす國よ 汝は福(さいはひ)なるかな
懶惰(ものうき)ところよりして屋背(やね)は落ち 手を垂(たれ)をるところよりして家屋(いへ)は漏(も)る
食事をもて笑ひ喜ぶの物となし酒をもて快樂(たのしみ)を取れり 銀子(かね)は何事にも應(おう)ずるなり
汝(なんぢ)心の中にても王たる者を詛(のろ)ふなかれ また寝室(ねや)にても富者(とめるもの)を詛(のろ)ふなかれ 天空(そら)の鳥その聲(こゑ)を傳(つた)へ羽翼(つばさ)ある者その事を布(ふる)べければなり