ねがはくは汝(なんぢ)わが母の乳をのみしわが兄弟のごとくならんことを われ戸外(そと)にてなんぢに遇(あ)ふとき接吻(くちつけ)せん 然(しか)するとも誰ありてわれをいやしむるものあらじ
われ汝(なんぢ)をひきてわが母の家にいたり 汝より教晦(をしへ)をうけん 我かぐはしき酒(さけ)石榴(ざくろ)のあまき汁(しる)をなんぢに飮(のま)しめん
かれが左の手はわが頭(かしら)の下にあり その右の手をもて我を抱(いだ)く
ヱルサレムの女子等(をうなごら)よ 我なんぢ等に誓(ちか)ひて請(こ)ふ 愛のおのづから起(おき)る時まで殊更(ことさら)に喚起(よびおこ)し且(か)つ醒(さま)すなかれ
おのれの愛する者に倚(より)かゝりて荒野(あれの)より上(のぼ)りきたる者は誰ぞや 林檎(りんご)の樹の下にてわれなんぢを喚(よび)さませり なんぢの母かしこにて汝(なんぢ)のために劬勞(くるしみ)をなし なんぢを産(うみ)し者かしこにて劬勞(くるしみ)をなしぬ
われを汝(なんぢ)の心におきて印(おしで)のごとくし なんぢの腕(うで)におきて印(おしで)のごとくせよ 其(そ)は愛は強くして死のごとく 嫉妬(ねたみ)は堅(かた)くして陰府(よみ)にひとし その焔(ほのほ)は火のほのほのごとし いともはげしき焔(ほのほ)なり
愛は大水も消(けす)ことあたはず 洪水も溺(おぼ)らすことあたはず 人その家の一切(すべて)の物をことごとく與(あた)へて愛に換(かへ)んとするとも尚(なほ)いやしめらるべし
われら小さき妹子(いもうと)あり 未(いま)だ乳房(ちぶさ)あらず われらの妹子(いもうと)の問聘(いひこみ)をうくる日には之(これ)に何をなしてあたへんや
かれもし石垣ならんには我ら白銀(しろかね)の城をその上にたてん 彼もし戸ならんには香柏(かうはく)の板をもてこれを圍(かこ)まん
われは石垣(いしがき)わが乳房(ちぶさ)は戍樓(やぐら)のごとし 是(こゝ)をもてわれは情(なさけ)をかうむれる者のごとく彼の目の前にありき
バアル ハモンにソロモン葡萄園(ぶだうぞの)をもてり これをその守る者等にあづけおき 彼等をしておのおの銀一千をその果(み)のために納(をさ)めしむ
われ自(みづか)らの有(もの)なる葡萄園(ぶだうぞの)われの手にあり ソロモンなんぢは一千を獲(え)よ その果(み)をまもる者も二百を獲(う)べし
なんぢ園(その)の中に住む者よ 伴侶(とも)等なんぢの聲(こゑ)に耳をかたむく 請(こ)ふ我にこれを聽(きか)しめよ
わが愛する者よ 請(こ)ふ急ぎはしれ 香(かぐ)はしき山々の上にありて[しか]のごとく 小鹿(こじか)のごとくあれ