シユヒ人(びと)ビルダデこたへて曰(いは)く
汝等いつまで言語(ことば)を獵求(かりもと)むることをするや汝ら先(まづ)曉(さと)るべし然(しか)る後われら論辨(あげつら)はん
われら何ぞ獸畜(けもの)とおもはるべけんや何ぞ汝らの目に汚穢(けがれ)たる者と見らるべけんや
なんぢ怒りて身を裂(さ)く者よ汝のためとて地あに棄(すて)られんや磐(いは)あに其處(そのところ)より移されんや
惡(あし)き者の光明(ひかり)は滅(け)され其(その)火の焔(ほのほ)は照(てら)じ
その天幕(てんまく)の内なる光明(ひかり)は暗くなり其(そ)が上の燈火(ともしび)は滅(け)さるべし
またその強き歩履(あゆみ)は狹(せば)まり其(その)計(はか)るところは自分(みづから)を陷(おとし)いる
すなはち其(その)足に逐(おは)れて網(あみ)に到り また[おとしあな]の上を歩むに
索(なは)その踵(くびす)に纒(まつは)り羂(わな)これを執(とら)ふ
索(なは)かれを執(とら)ふるために地に隱(かく)しあり羂(わな)かれを陷(おと)しいるゝ爲(ため)に路(みち)に設(まう)けあり
怖(おそ)ろしき事(こと)四方(よも)において彼を懼(おそ)れしめ其(その)足にしたがひて彼をおふ
その力は餓(う)ゑ其(その)傍(かたはら)には災禍(わざはひ)そなはり
その膚(はだへ)の肢(えだ)は蝕壞(くひやぶ)らる即(すなは)ち死の初子(うひご)これが肢(えだ)を蝕壞(くひやぶ)るなり
やがて彼はその恃(たの)める天幕(てんまく)より曳(ひき)離されて懼怖(おそれ)の王の許(もと)に驅(おひ)やられん
彼に屬(ぞく)せざる者かれの天幕(てんまく)に住み硫礦(いわう)かれの家の上に降(ふら)ん
下(しも)にてはその根(ね)枯れ上(かみ)にてはその枝(えだ)斫(きら)る
彼の跡は地に絶(た)え彼の名は街衢(ちまた)に傳(つた)はらじ
彼は光明(ひかり)の中(うち)より黑暗(くらやみ)に逐(おひ)やられ世の中より驅出(かりいだ)されん
彼はその民の中に子も無く孫(まご)も有(あら)じ また彼の住所(すみか)には一人も遺(のこ)る者なからん
之(これ)が日を見るにおいて後(のち)に來(きた)る者は駭(おど)ろき先に出(いで)し者は怖(おぢ)おそれん
かならず惡(あし)き人の住所(すみか)は是(かく)のごとく神を知(しら)ざる者の所は是(かく)のごとくなるべし