箸休め 53
7. 芹沢 はっとりさま(宇賀神)
茅ヶ崎のべんてん 序文と目次 に戻る
7.芹沢 はっとりさま
小出地区芹沢の大谷と中ノ谷に挟まれた丘陵上に鎮座している。自動車板金工場角のT字路に社を見つけた。地元では「はっとりさま」と呼んでいる由だが、ご近所の方に聞いても、ご存じなかった。
【市史】には、『大谷の二戸が祀る』と記載されている由だが、均茶庵には該当箇所が見つからない。鳥居の中に、小祠が2つ並んでおり、左側のブロック造りの祠の中に、蛇姿(宇賀神)が4体鎮座している。大小2体ずつだ。
【報告】には、「対」とあるが、「対」は、宇賀神の数ではなく、「祠」の数を指しているようだ。尚、中央の祠の両脇には、「鈴木 氏子中」「大正三年十一月吉日」(1914年)と彫ってある。
この一対の祠の関係は、わからない。作りがそれぞれ大いに異なるし、鳥居に対する祠の位地から見て、宇賀神は後から付け足されてようにも見える。つまり、正面の祠は、宇賀神とは本来関係無いのかも知れない。「はっとり」の名前は、元々正面の祠の神に付けられた可能性が大きそうだ。
尚、正面の祠を道祖神とする説もあるが、若干疑問だ。道祖神に鳥居を付けた例を見たことがない。道祖神は、本来路傍の神であり、塞の神だ。
230223 均茶庵
① はっとりさま
「はっとり」の言葉の由来は不明だが、一般的には「機織り」と解釈されている。折口信夫の「水の女」に依ると、古代に選ばれた処女が、川の淵近くに神のための小屋を建てて機を織るという習わしがあったそうだ。川の神は、蛇の姿の宇賀神だ。この地域は、小出川と大谷川に近いが、社は丘陵の上にあり、折口説にはちょっと合わない。
「はっとりさま」のある場所は、田畑にはまるで適していない。元々の土地の用途としては、薪と肥料用の落ち葉を取る雑木林くらいなものだったろう。しかし、この地域にも次第に製糸業が発展してくる。製糸工場も、明治32年(1899年)には小出村芹沢に平本製糸が操業した。同年には、隣接地の遠藤(藤沢市)に山本製糸が開業した。大正6年(1917年)には、茅ヶ崎駅前に純水館茅ヶ崎製糸所が開設し、一世風靡した。明治~大正の地形図をみると、小出村の丘陵には桑畑が散在している。
一方、相模原市の皇武神社は、明治の中期頃、養蚕の神様「おきぬ様」を創案し、瞬く間に一円に広がった。芹沢も、当然その影響下にあったと思われる。「おきぬ様」の本体は、当然のことながら、蚕だ。皇武神社には、宮司の娘の姿に化して、蚕の繁忙期の村人を助けたが、正体を問われると、白蛇に変身して社殿に逃げ込むという伝説がある(伝説が創作された)。蛇は、蚕の天敵の鼠を駆除する事から、蚕の守り神様ともされている。
皇武神社のオキヌ様
以上から、「はっとりさま」は、根拠はないが、養蚕の神様として祀られたのではないかと考えても、大きく外れることはないのだろう。「はとり」は、絹織物を作る部族も指すが、当然のことながら、絹の原料である絹糸を作る養蚕業も営んでいた。祠に刻された大正3年(1914年)は、当地における養蚕業の全盛時代にあたる。しかし、神奈川県の製糸業は、大正12年(1923年)の関東大震災を契機に、ほぼ全て消滅してしまった。
茅ヶ崎市にある養蚕関係の碑は、芹沢と同じ小出地区堤にある八王子神社の養蚕大神が唯一だ。こちらには、昭和4年9月(1929年)の銘がある。
はっとりくん
① 宇賀神
祠がある場所は、そもそも水辺からは遠く、宇賀神の本来の性格である水・稲作の稔りの祈願とは、ちょっと関係が薄そうだ。寧ろ、上記したように、養蚕の神様である「白蛇」を祀ったと考える方が適当だろう。
更に、宇賀神は、1祠に1体を納めるのが通常であって、均茶庵は複数体を納めた例を見たことがない。つまり、最初から複数像を祠に納めたのではなく、後年になって、祭祀が廃れてから宇賀神の像を、一箇所にまとめた可能性が大きい。
宇賀神三姉妹:ユリ(17才)・のばら(16才)・蘭(15才)
宗像三姉妹: 湍津姫命(たぎつひめのみこと)・田心姫命(たごりひめのみこと)・市杵島姫命(いちきしまひめのみこと) 年齢不詳。
こんな風に考えてはどうだろうか。芹沢の丘陵に桑の栽培が広がり、全盛期の大正初めには、「はっとりさま」の社が作られた。周りの桑畑の中には、あちらこちらに宇賀神が祀られた。しかし、関東大震災以降、製糸業が急速に衰え、芹沢丘陵での桑栽培も終了した。宇賀神の祀りは、自然と廃れた。そして、ある時期、あちらこちらに散在していた宇賀神の石像が、「はっとりさま」の社に集められた。その後、ブロックの祠が作られて、4体の宇賀神像がまとめて納められた。その時期は、祠の様子から見ると、それ程古いとは見られない。多分、昭和末期~平成期だろう。
均茶庵は、勝手気ままに想像を巡らすのが、大好きだ。勿論、理屈は付けるが、根拠なんてまるで無い。
230223 均茶庵
目次(予定) *目次をクリックするとジャンプ
それでは、旅に出てみよう。
運転免許証を返納してしまったが、チャリで回るには、手頃な距離だ。愛車は、ブリジストンXB-1 (2022年製の新車だ。)
社:
2. 小和田 熊野神社内
2.1 厳島神社及び石碑
2.2 弁才天 碑
3.1 厳島神社
3.2 石神弁天社
3.3 妙音弁才天
3.4 弁天石像
4. 柳島 厳島神社
寺
11.浜見平 宇賀神
12.小和田 広徳寺 宇賀神
その他:
14.中海岸 七福弁天庵