現役の頃、机の上に緑が全くなかった。事務所という所は、もの凄く乾燥した環境で、机の上に、草や花の小鉢を置いても、土・日の休日を過ぎると、カラカラになって枯れてしまう。そんなわけで、今流行のテラリウムを始めた。20年くらい前の話だ。こんな言葉は、その頃未だなかった。しかし、長期の出張が入ると、これでも問題が出てしまう。
大昔、コウヤノマンネングサを水中花としてお土産にしたという話を、ふと思い出した。思い切って、コケを水の中に沈めてみた。その後、色々なコケを試してみた。
百均で、高さ12cm位のちょっと大きめの硝子のコップを買って来る。飾り用の白い砂を敷き詰めて、その上に鉛の小さな重りを付けたコケを置く。被るくらいの量の水を入れ、トイレの窓際(北向き)に並べて、蓋をかぶせる。後はそのまま放りっぱなしで、水も替えない。
カサゴケモドキは2018年10月に、オオカサゴケは2018年11月から観察した。そして、2018年12月には、早くもシュートが伸びてきた。カサゴケモドキは、傘の下の辺りから出るが、オオカサゴケは、植物先端の傘のような場所の頂上から伸びる。2019年5月には、2番目のシュートが伸びてきて、全部で3段傘となった。水中から引っ張り出して紙の上に広げた写真を見ると、その違いが良く分る。
左:オオカサゴケ 右: カサゴケモドキ
左:オカサゴケ 右: カサゴケモドキ
自然環境下で生育して居るときには、茎の下部が地下茎となって、腐食質の地中を水平に這う。そして、地下茎端から一本垂直にシュートを伸ばす。勿論、例外はあるが、通常はこのように二段・三段の傘にはならない。水中という生活環境に適応した変態だろうか。原因は分らない。自然環境下での成長の経時観察については、西村・大前(1993)の「オオカサゴケのシュートの成長」に詳しい。
オオカサゴケのシュートが水面から顔を出し、傘が大きく開くまでに成長すると、もうそれ以上、傘の頂上からは新なシュートが出ない。植物体が全水没している時に、傘が一体何段まで出来るのかを確かめるために、高さ25cmの硝子の花瓶を使って、別株を育て始めた。結果が出たら、改めて報告したい。
所で、2019年7月に入って、今度はオオカサゴケの一段目の傘の下からシュートが伸び始めた。先端には、傘の元となる小さな葉の塊がついている。どうも匍匐茎にはならないようだ。ここにも、何段か傘ができるのだろうか。成長が、楽しみだ。
この二種の他、水中でどんなコケが育つのか試してみたが、長い間生育したのは、Rhodobryum以外には、ヤナギゴケLeptodictyumやコウヤノマンネングサClimacium japonicumくらいだった。いずれのコケも、比較的湿潤な場所を好む。最長で、3年くらい育てた事がある。水中のコケ園は、静かに継続中だ。いずれ機会があれば、別のポットの中で生育中のコウヤノマンネングサC.japonicumとフロウソウC.dendroidとフジノマンネングサPleuroziopsis rutheicaについて、追加の報告をしたい。
引用文献:
西村直樹・大前直登. 1993. オオカサゴケのシュートの成長. しだとこけ 服部新佐先生追悼記念号: 82-84