均茶庵の踏査で分かった事
あくまでも素人発想の、且つ、証明されてもいない仮説ながら、こんな風に想像を巡らしてみた。将来どなたかが調べられる時の参考にでもなれば、存外の幸せだ。本来なら、日本全体の分布を調べなければいけないのだろうが、均茶庵の本拠地は神奈川県なので、あくまでも神奈川県(及び、伊豆半島)に限定して話しをしたい。
オオミツヤゴケ生育の環境・分布条件についての文献は、均茶庵が知る限り、決して多くない。しかも、内容的には、下記を越えた表現は見当たらない。この辺に多少ともアプローチできればと考えている。
「生于山地林中树干上。东亚特有。」(『中国高等植物第一巻』, 2012)
「日本特産で、ブナ帯などの樹幹に着生」(図鑑の北隆館, 1976)
「山地樹上に生育」(教育社, 1972)
「山地の樹上に生えるが稀。」(平凡社, 2001)
「grows on tree trunks.」(野口, 1994)
「中国と日本の本州・四国・九州に分布。低山地の開けた場所の明るい樹幹上に生育するかなりまれな種」(広島大学, 2008)
1. 生育地の標高:
標本を採取したのは、相模原市の標本 標高約400m以下 を除くと、全て標高700-1,400mの間にある。特に、標高900-1,200mの間で濃密だった。又、標高700-900mの比較的低い山地での生育は、芦ノ湖沿岸及び北伊豆に限られていた。
2.分布域:
相模原市の標本については、生育高度が著しく低く、又、均茶庵が数度踏査したが、確認できなかったことから、分布地域として断定するには、材料が不足している。又、神奈川県と境を接する東京都からは、生育 の報告がない。鍋割山~塔の岳を結ぶ線が、オオミツヤゴケの北限と考えても良いのではなかろうか。
丹沢山地の鍋割山を中心とする地域、箱根の芦ノ湖を取り巻く地域と伊豆へ延長した山地、及び、天城山周辺の三地域に、集中して分布している事が分かった。特に、箱根外輪山を含む芦ノ湖周辺に、濃密に生育している。各分布域の間には、広い非分布帯がある。
3.分布する環境の特徴:
生育地は、上記1.の標高条件、陽当たりが良好な事、及び、樹幹又は枝に生育する事という3条件を必ず満足していた。特に地形の凸部(ピーク及びカルデラ外輪山稜)を好んで生育していた。陽当たりが良好であっても、コル部には見られなかった。
箱根・丹沢・大山の広い範囲に、杉の植林が進んでおり、オオミツヤゴケの生育に適していない環境が広がっている。
4.その他:
胞子は、表面がざらざらした上に、径が40-55μmと著しく大型である。(Noguchi, 1994)又、蓋がついた状態 の蒴の中の胞子には、隔壁があり、且つ、多細胞であるため、胞子内発芽の可能性がある。(樋口, 2013)
上記の特異な分布状態を併せて考えると、オオミツヤゴケは、もしかすると平家の成れの果てみたいなものかもしれない。嘗て全盛を誇り栄華を極めたものの、戦いに負けてしまった。そして、行き着いた先は、密かに隠れ住む奥深き山の中。「ただ春の夜の夢のごとし・・・・」
5.積み残し:
アクセスの問題などにより、均茶庵が未だ踏査できていない場所がある。
蛭ケ岳~姫次 (東海自然歩道) 標高 1,330-1,673m
丹沢山~丹沢三峰~高畑山 (丹沢三峰) 標高 766-1,567m
鍋割山~秦野峠~シダンゴ山(檜岳山稜) 標高 758-1,272m
畔ケ丸~菰釣山、山伏峠~明神山 (甲相国境尾根) 標高 1,100-1,348m
ユーシンロッジ~塔の岳* 標高 750-1,491m
箱根山 (駒ヶ岳山頂を除く)** 標高 700-1,438m
* 2018年2月から、斜面崩落のため玄倉林道の通行禁止。
** 2015年6月から、火山情報のため入山禁止。
オオミツヤゴケに戻る
{文献記録ナシ} 均茶庵が生育を確認。文献記録が見当たらない。
{再確認} 均茶庵が生育を確認。文献記録あり。
{未} 均茶庵は生育を確認できていないが、文献記録あり。
*引用文献及び略語については、「コケの参考書」をご覧ください。
*写真の拡大は、PCの拡大機能を使ってください。
作成: 190412