他の県では、当種は決して珍しくないが、神奈川県ではなかなか見つからない。県内でも豊富に生育するキヨスミイトゴケB.pendulaと非常に似通っており、屋外では見過ごしやすい。しかし、慣れて来ると、灌木にぶら下がったそのほっそりとした姿が気になるようになる。イトゴケは、キヨスミイトゴケに比べて細身な事と、葉細胞にパピラが複数ついている事で区別する。但し、キヨスミイトゴケにも2個程度パピラが付いている時があるし、標本が古くなると、パピラが見えにくくなってしまう。サフラニンで色を着けると、分かり易くなる。
① 箱根 神山・早雲山 {未}
県RDBでは、上記の箱根の2山で記録があるものの、生育の再確認ができていないとしている。それぞれ、山頂の標高が1,438m、1,244mあるが、どの地点で採取したのか、均茶庵は資料を持っていない。又、火山情報発令により、箱根山への登山は、2015年6月から禁止されている。
② 箱根 金時山 {未}
県RDBに記載があるが、残念ながら、均茶庵は生育を確認できていない。又、山頂の標高が1,213mあるが、どの地点で採取したのか、均茶庵は資料を持っていない。
③ 丹沢 犬越路~大室山 標高 1,400m {文献記録ナシ}
犬越路から大室山へ向かう登山道路の、ほぼ中間地点の灌木から懸垂していた。2012年11月に採取した。99%間違いなくイトゴケと同定したが、イトゴケが神奈川県では絶Iに指定されているため、初心者の均茶庵は、どうしても確信を持てなかった。キヨスミイトゴケの可能性もあるのではなかろうかと、細かい点を調べれば調べるほど、疑心暗鬼となった。
2017年11月に至り、岡山理科大学の西村先生に、同定頂いた。5年かかった。
④ 丹沢 塩沢 標高 300m {文献記録ナシ}
新東名の工事音がけたたましい河内川を西に渡り、塩沢に沿って狭い道を登る。やがて、塩沢の小さな集落で道路が終わる。そのまま谷川に降り、300m程遡ると、高さ42mの名瀑「不老の滝」に至る。谷底にそって、更に暫く歩く。この辺りは、新生代第四紀更新統に堆積した、大きな礫がごろごろしている塩沢層でできているから、地盤が物凄く弱い。雨が降ると、崖がたちまち崩れる。そして、急に谷川が開け、廃田に着く。放棄されてから未だ余り年月が経っていないようで、立派な石垣で守られた旧水田の表面には、まばらに灌木が生えているだけだ。日陰に横たわって目をつぶると、まるで陶淵明の桃源郷だ。ホトトギスの声が、谷に響く。
夢見の中から目を開けた瞬間、灌木から短く下がった細い糸を見た。間違いなく、イトゴケだ。どうしてこんな所に生えているのだろうか。周りを調べてみたが、結局、この灌木一本からのみ、生育を確認できた。2018年6月の、梅雨の合間の蒸し暑い日だった。
⑤ 相模原市及び川崎市 (標高 400m以下) {未} Rev. 180815
2014年のJR東海によるリニア新幹線環境アセス別表8-4-2-19(63)に、相模原市の1地点及び川崎市の1地点で確認されたとの記載がある。いずれも、『(リニア新幹線予定地から)相当離れた地域』としている。両地点ともに、標高の比較的低い場所と考えられるが、均茶庵はアセスを未入手のため、確認できていない。
⑥ 箱根 芦ノ湖西岸遊歩道 (標高 750m) {未} Rev. 181218
文献を調べていたら、見逃しを見つけた。深良水門~湖尻峠に至る遊歩道の、楓の枝から下がっていた由。(佐々木, 2011) 均茶庵は、遭遇していない。
結論として、神奈川県における明確な産地は、②~④及び⑥の4ケ所のみと思われる。
【野口】短いひげ。葉の先が毛状になっていることによるものか
【牧野】L. barbaひげの縮小形。体が細いから
【e-Floras】 L. barba, beard, and -ella, diminutive, alluding to pendent secondary stems
【Crum】The name makes reference to long, slender, secondary stems forming graceful, pendent, bearlike masses.
【秋山】「barbellae=短剛毛」 葉の先端が細長く伸びて剛毛状になることから
【田中】短いひげを意味する。
注) 学名が、Neodicradiella pendulaに変更となっている。 (200509/200701)
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{文献記録ナシ} 均茶庵が生育を確認。文献記録が見当たらない。
{再確認} 均茶庵が生育を確認。文献記録あり。
{未} 均茶庵は生育を確認できていないが、文献記録あり。
*引用文献及び略語については、「コケの参考書」をご覧ください。
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