200516 Rev. 200920
コケ好きには、「蘚類」派と「苔類・角苔類」派の二つの流れがある。表向きは、お互いの美意識を尊重して、ニコニコと『そうですね。素晴らしいですね。』と相づちを打っているが、心の中は穏やかではない。
蘚類派は、苔類・角苔類を見ると、『何だあの地面や幹にべっちゃりとくっついて、気持ち悪い格好は(葉状体)。小さいコケがやたら集団を作って、まるで黴みたいだ(茎葉体)。』それに対して、苔類派は、『鮮やかな黄色の胞子が下がった雌器床は、目を釘付けにする。まるで空飛ぶ円盤のような不思議な形だ。弾糸に刻まれた幻想的な模様は、夢の世界に誘う。一晩で枯れてしまう蒴は、はかなくも哀れを感じさせる。ちょっと見ただけの表の姿と、顕微鏡の世界は全く異なる。』きっとこんな風に反論するだろう。
1977年に、コケの泰斗 高木典雄先生は、「日本の代表的なコケ類」を11種選んだ。蘚類が8種、苔類が3種含まれている。「日本の固有種」「姿も美しく、特徴があって誰にも見分けのつくもの」「日本の中ではかなり分布の広いもの」又は、「小柄でも個性の強いもの」又は、「研究史の上で何らかのエピソードを持つもの」を選定の基準としている。その結果、以下のような種が選ばれた。
蘚類:
コウヤノマンネングサ、ホウオウゴケ、ヒメクジャクゴケ、ミヤコノツチゴケ、ヒムロゴケ、クマノゴケ、クマノチョウジゴケ、ホンシノブゴケ 計8種類
苔類:
マキノゴケ、サワラゴケ(ムクムクゴケ)、ナンナモンジャゴケ 計3種類
さて、高木先生の美観と定義からは外れて、均茶庵の「好きなコケ」を3つ選んでみた。「日本の固有種」に拘っていない。単に、「個性的」で「姿が美しい」という、極めて個人的な好みに基づいている。だから、完全に独断と偏見の世界だ。みんなの同調を求めない。顕微鏡のお世話にもならない。
均茶庵は、蘚類派だから、苔類は選から漏れた。
【ここから下の文章が、2020年9月のOkamoss 50号に掲載された。】
コウヤノマンネングサ:
木漏れ日の柔らかい光の中に、細面の姿がくっきりと浮かぶ。可憐で優美な姿に、吸い込まれた目が、そのまま固まってしまう。まるで伝説の大和撫子。1962年の吉永小百合。
オオカサゴケ:
背はそれ程高くないが、草むらからまるでバラのような艶やかな姿をすっくと立ち上げる。落ち着いた妖艶さに秘められた、凛とした気高さ。女王の風格。雪の女王エルサ(松たか子)。
ウマスギゴケ:
草原を埋め尽くすように風に揺らぐ大群は、まるで戦国時代の騎馬軍団。堂々とした群れから、地響きが聞こえて来そうな感じさえする。武田信玄あるいは成吉思汗
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