かみさんのお供で、2019年11月に、10日間中欧に観光旅行に行った。勿論、かみさんと一緒だから、個人旅行ではなく、Trapicsにお世話になった。オーストリア、チェコ、スロバキア、ハンガリーと、結構な長旅となった。羽田から、行きはドイツのミュンヘン経由ハンガリーのブダペストに入り、帰りはオーストリアのウイーンから戻った。
中欧旅行のハイライトは、中世のきれいな街とハプスブルク家の宮殿・お城とカトリックのお寺と言うことになる。全て、人が作り上げた景観だ。小さな声で言うと、均茶庵の趣味からは、ちょっと外れている。所が、帰りの日程が迫った頃、オーストリアのザルツブルク市近くにあるハルシュタットで、まとまった自由時間が取れることになった。
ここは、アルプス山脈の一番東の端にあたり、氷河が作った湖がいくつもある。湖の麓の狭い場所に、ハルシュタットの街がある。現在では、只の小さな観光地だが、中世にあっては、岩塩鉱山で大繁栄した。嘗ては、塩が金や銀と並ぶ貴重な富だった。給料を意味するサラリーの語源は、塩を意味するSalから由来している。勿論、現在は採掘をしておらず、岩塩坑は観光客の見物の場になっている。
標高513mのハルシュタットの街から、標高855mの山頂駅まで、ケーブルカーで数分間だ。車中から見下ろす湖や山々は、流石に世界遺産の名前に恥じない。そして、標高900mの岩塩坑までは、緩やかな遊歩道が続いている。何と、針葉樹で縁取りされた幅2m程の道の両側には、コケがびっしりと生えていた。湖から朝霧が上がってきて、コケの生育に絶好の環境を提供しているようだ。こうなると、歩が進まない。かみさんの叱咤にも拘わらず歩みは鈍い。
殆どのコケの種類は、日本産に似ているようだ。しかし、何となく寸法が大きい。大陸にあると、何でも大きく育つのだろうか。詳細は日本に戻ってから調べることにして、目に付く標本を摘まませていただいた。幸いBousch & Lombのルーペだけはいつもポケットに入れているが、採集用の袋がない。ホテルから持ってきた観光パンフレットの頁を引き裂き、その間にコケを挟む。そして、コンビニのプラ袋に、目立たないように収める。
本当は、アルプスの山々の景色を楽しむ筈だった。しかし、今振り返ってみても、何があったのか、まるで覚えていない。カメラの電池は、数日前に切れてしまった。今度の旅行には、充電器を持ってきていない。かみさんのiPhoneに数枚のご許可を頂いただけだった。従って、メモリー容量の少なくなった均茶庵の脳みそに、精一杯記録するしかない。
ケーブルカー山頂駅から、ハルシュタットの街までは、遊歩道がずっと続いている。本当は、この道をじっくりと降りたかった。残念ながら、山頂駅に戻った時には、集合時間いっぱいになっていた。下りのケーブルカーの中で、改めて山々の美しさを楽しむ。きっと、もう一度来る機会はないだろう。
日本にもどってから、緊張感たっぷりの同定作業に入った。結果は、「分る物は分るし、駄目な物は見当も付かない。」予想通りだった。それでも、標本袋に収める時の喜びと弛緩に、旅の思い出をしっかりと味わった。
2019年12月11日 均茶庵
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