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箱根(神奈川県)のヒロハヒノキゴケ(Pyrrhobryum spinoforme var badakense)
最初に:
蒴が着いていない場合、ヒノキゴケとヒロハヒノキゴケを区別するのは非常に難しい。均茶庵の実力では、殆ど不可能に近い。均茶庵が採集した標本は、いずれも蒴がついていなかった。従って、下記に合致した場合を、「ヒロハヒノキゴケ」と同定させていただいた。誤りの可能性が多々ある事を、了解して頂きたい。
1.植生:林内の杉・檜の樹幹下部、あるいは、腐朽した木材に生えている。(ヒノキゴケは、主として腐植土上)
2.植物体の大きさ: 2~5cm (同、5~10cm)
3. 上部の葉の大きさ: 3~6mm (同、10mm前後)
4. 仮根: 植物体の基部及び下方にのみあり、中部にはない。(同、中部以上まである)
5.その他: 葉の形が、全体的にずんぐりとしている。(同、披針形で細い)
それでは、本題:
本邦では、変異種を含んで、ヒノキゴケ属(Pyrrhobryum)が5種確認されており、その内神奈川県からは、ヒノキゴケ(P. dozyanum)及びヒロハヒノキゴケが報告されている。ヒノキゴケは、やや日が当たらない林床に生育し、ごく普通に見られる。形状が非常に優雅で、日本庭園にも広く植えられており、又、テラリウムとしても販売されている。一方、ヒロハヒノキゴケは、本州以西に産するが、神奈川県産は比較的珍しく、下記二箇所のみが報告されている。均茶庵は、箱根杉並木及び箱根神社で新たに生育を確認した。尚、関東地方産としては、茨城県からも記録されている。
1.南足柄市 大雄山最乗寺 標高: {再確認} (1999. 杉村・大橋) 標高350m
県きっての古刹である最乗寺境内の杉根元及び杉樹幹に密生しており、雨の後などには、その美しさに『ああ、ここは日本なんだ。』と思わず感激する。古刹に相応しい雰囲気を醸し出している。
均茶庵は、毎年と言って良いほど、最乗寺に参拝している。そのたびに、『ヒノキゴケがきれいだな。』と思っていた。同時に、『普通は、地上に生えているのに、ここは木の幹に生えている。それにちょっと小ぶりだな。』と感じていた。上記杉村・大橋の論文を見るまでは、ヒノキゴケと別種に当たるとは、夢にも思っていなかった。
2. 箱根町 芦ノ湖西岸 (2011. 佐々木)
2.1 外輪山の尾根道(湖尻峠~深良水門)の腐木 {未} 標高850m
2.2 箱根町芦ノ湖西岸遊歩道(芦ノ湖沿い)の杉幹の下部 {再確認} 標高740m
均茶庵は、2021年11月に、白浜の2本の杉古木樹幹下部に、生育を確認している。
3.箱根町 芦ノ湖南岸及び東岸
3.1 芦ノ湖南岸。箱根杉並木 {文献記録ナシ} 標高743m
箱根恩賜公園駐車場南側の旧街道杉並木入口から、約10m程東へ入った樹齢数百年の杉樹幹下部に生育していた。生育が確認出来たのは、一箇所のみだったが、大きな群落を作っていた。確認日: 2021年9月
3.2 芦ノ湖東岸。箱根神社 {文献記録ナシ} 標高750m
箱根神社拝殿入り口脇及び拝殿下の階段脇の二箇所で生育を確認した。境内周辺は、鬱蒼とした樹齢数百年の杉古木に囲まれている。いずれも、杉樹幹に生育していた。
確認日: 2021年10月
神奈川県は、ほとんどの山地に杉か檜が植えられている。しかし、ヒロハヒノキゴケの生育が確認できる場所は、上記の通り非常に限られている。殆どの場合、やや薄暗く且つ湿った環境下で、樹齢数百年以上の、樹表面が腐朽化した杉樹幹~根に群落となって着生している。しかし、古刹・神社内に同じような環境条件にあると思える古木が多数あっても、ごく一部の幹にしか生育していない。
【e-Flora】G. pyrrho, flame-colored, and bryon, moss, alluding to peristome
【Meagher】pyrrhos (fire-coloured) and bryon (moss), presumably alluding to the colour of the pristome
以前は、Rhizogoniumと呼ばれていた。
【野口】Rhizo (根) -gonium (生ずる)は、胞子体が根の所から生ずる意味。
【Crum】The name refers to copious paraphyses suggesting a rooted sporophyte.
【Meagher】rhiza (root) + gonima (fruit), alluding to the fact that the sporophytes appear to arise from the ‘root’ of the plant — ‘originem ab ipsa radice in hoc genere solemnem indicans’ (Bridel 1827: 663) — although they are actually borne on specialized branches at the base of the stem. Crum and Anderson (1981: 657) were not quite correct in suggesting that the name referred to the ‘copious paraphyses, suggesting a rooted sporophyte’. The stem gonima was misspelt ginomai in the protologue.
【秋山】「rhizo=仮根+goneus=生産者(ここでは花)」 生殖器が茎に密生する仮根の中に 埋もれて生じることから.日本産種は Pyrrhobryum とされる
引用文献
頼明洲(1978). The Genus Rhizogonium Brid.(Musci) in Taiwan. National Taiwan University
杉村康司、大橋毅(1999). 大雄山最乗寺(神奈川県、箱根)の蘚苔類. 自然環境科学研究 12: 85-101
杉村康司(2004). 茨城北東地域の蘚苔類. 茨城県自然博物館第3次総合調査報告書 200-275. ミュージアムパーク茨城県自然博物館
佐々木シゲ子(2011). 芦ノ湖西岸(神奈川県)のコケ植物. 自然環境科学研究 24: 7-20
葉先
葉先の拡大
中肋背面の歯
{文献記録ナシ} 均茶庵が生育を確認。文献記録が見当たらない。
{再確認} 均茶庵が生育を確認。文献記録あり。
{未} 均茶庵は生育を確認できていないが、文献記録あり。