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当稿は、2021年3月9日発行の岡山コケの会ニュースNo.51に掲載された、「神奈川県のイワマセンボンゴケ」に、加筆・訂正したものです。
イワマセンボンゴケとホンモンジゴケS.cataracaeの区別は、厄介だ。平凡社(2003)、及び、野口(1988)によれば、イワマセンボンゴケは、下記のような点で、ホンモンジゴケと異なるとしている。しかし、野外では、区別が難しい。
1.仮根がざらつく。
2.葉先が鈍頭~鋭頭。
3.中肋断面の腹側の大形表皮細胞が一層。
4.葉の下部は、狭くなり、強く竜骨状。
5.乾燥葉は、やや圧着し、僅かに屈曲。
均茶庵は、山の岩上で採取した時には、前者の可能性ありと考え、お寺の銅屋根の軒下の庭や溝で見つけた時には、後者と取り敢えず考えている。又、イワマセンボンゴケは、舌のような匙のような何となく丸っぽい形をしている。そして、顕微鏡下で中肋の断面を見て、腹側の表皮細胞が1層の場合にはイワマセンボンゴケで、2層の場合にはホンモンジゴケと、最終的な断を下している。
均茶庵は、これまでイワマセンボンゴケを3件採集している。冬の寒さに蟄居を余儀なくされている時に、何気なく文献をさらってみた。何と、神奈川県の蘚苔類チェックリスト(2019年改訂版)には、ホンモンジゴケしか載っていない。論文も探してみたが、全く見当たらない。県産初めてという事になるのだろうか。ごく普通のコケなのにどうしてかなと、不思議に思う。{文献記録ナシ}
県産の3件は、いずれも山中の火成岩で採取した。それ程珍しいコケとは思っていなかったので、山で見つけても敢えて採取しなかった場合もある。従って、実際の分布は、もっと広いものと思われる。
いずれの場合も、岩の表面に浸出した濃い色の鉱物が付着している場所に、塊になって生育していた。分布は、極めて局所的になる。Ph3以上の強酸性を示す銅鉱・褐鉄鋼・金鉱の硫化物上、あるいは硫黄を含む土壌に、特異的に生育する。(野口, 1976) 植物体には、一万ppmを超える銅が含まれており、『銅ゴケ』とも呼ばれている。通常の植物の生育限界は、1ppmだ。(秋山, 2004)
1. 丹沢玄倉川境隧道 標高 500m
隧道北側の崖の岩上で、2016年3月に採取した。生育量は少ない。玄倉川は、がけ崩れにより、現在全面通行止めとなっている。
2. 丹沢ツツジ新道 標高750m
西丹沢自然教室からゴーラ沢出合いに行く途中のツツジ新道登山道脇の岩上に生育していた。2016年4月に採取した。又、直ぐ近くで、2018年10月にも採取した。生育量は少ない。
3. 丹沢 山北町県道729号線 夕霧橋~水の木橋 標高560m
丹沢湖から西へ延びる県道729号沿いの崖で、2020年9月に確認した。夕霧橋から水の木橋の間に断続的に生育しており、岩肌に大きな塊となっている。岩肌は、何れも変色しており、重金属が浸みだしているものと思われる。
引用文献:
秋山弘之(2016). 新・コケ百選第17回センボンゴケ科. 蘚苔類研究 11(7): 221-226.
有川智己ほか(2019). 神奈川県産コケ植物チェックリスト(2019年改訂版). 自然環境科学研究 Vol. 32. 31-62.
その他
201003/210324 均茶庵
属名の由来
【野口】 不明
【e-Floras】 G. skopelos, crag, and phila, fondness, alluding to characteristic rocky habitat
【Smith】referring to the rocke or stony habit
【Crum】 The generic name makes reference to a rocky or craggy habitat.
【秋山】「scopelos=断崖絶壁+philos=好む」 断崖絶壁に生じることから.
{文献記録ナシ} 均茶庵が生育を確認。文献記録が見当たらない。
{再確認} 均茶庵が生育を確認。文献記録あり。
{未} 均茶庵は生育を確認できていないが、文献記録あり。