「山は裂け海は褪せなむ世なりとも君に二心我があらめやも」源実朝が後鳥羽上皇に忠誠を誓った歌だ。均茶庵には、「君が代」と同じように、恋歌にも聞こえる。
神奈川の山は、どんどん崩れる。
神奈川県を代表する箱根・丹沢大山などの新生代の山々は、もの凄く脆い。まるで実朝の歌通りで、ちょっと雨が降ると、それこそ至る所で、「山は裂け」てしまう。泥水のような土砂崩れで、林道や登山道が通れなくなる。
特に2019年10月の台風19号と2021年8月の豪雨は強烈だった。それまでの大雨で傷ついていた道路は、跡形もなくなった。あちらこちらで、山道が流れた。今でも、改修計画が立っていない登山道は多い。
これに加えて、箱根中央火口丘と大涌谷は、2015年5月から、火山噴火レベル2警報発令を機会に、入山禁止となった。逆を言うと、「登れる登山道」が、数える程になってしまった。
豊かだった時代
昭和の時代は豊かだった。人が殆ど通らないような道であっても、ちょっと崩れると直ぐに補修をした。山の中は、まるで江戸時代の幹線道路と変らないほど整備されていた。『こんな所に税金を使って!』と、ふと恨み節も出た。
だが、令和の日本は貧しくなってしまった。街の中でも道路陥没が起こるし、とても山の中までは手がまわらない。まして、殆ど交通のない登山道など、壊れたら何年もそのままだ。そして、壊れたままになった登山道は、復旧が一段と難しくなる。
かくして、箱根・丹沢に残っている道は、あらかた「観光登山道」だけになってしまった。有名山の頂上に続く、木道が整備された道だ。それに、『ここから中には入るな。』と、あちらこちらにロープが張ってある。「生物多様性」を守る為の措置だそうだ。
確かに、登山者は増えた。平日でも、ばあさん達の甲高い笑い声がこだまする。鳥の声なんて、かき消されてしまう。「トレッキング」が流行となり、山に親しむ人が増えると共に、山小屋が、「商売」に変った。昭和の時代は、山小屋泊は自炊と決まっていた。しかし、今ではレストラン食をウリにしている「山ホテル」もある。お金があれば、何でも手に入る。「自然に親しむ」という意味での山の魅力が、どこかに消えて行った。大きな矛盾だが、世の流れでは仕方あるまい。
伊沢正名先生の糞土師など、とんでもない。意識が高い自然保護派は、世の中にこんなにも沢山いたのかと驚く。悔い改めない老人は、じっと尿意を堪えて、肩をすぼめて歩く。
仙厓義梵の絵と歌「うらめしやわが隠れ家は雪隠か来る人ごとに紙おいてゆく」で、〆よう。
注)仙厓が修行した東輝庵は、横浜の宝林寺にあった。
後期高齢者
更に、コロナが大流行する中、みんなが自宅引き籠もりを余儀なくされた。これは、街に限らない。山の頂上は、登山者が密集する場所で、「危ない」場所に含まれる。均茶庵は、山行きを自粛している間に、どんどん後期高齢者に近づいてしまった。だから、自身の危険とみなさまにご迷惑をかけるのではないかと、人目を忍んで、半分崩れた通行禁止の登山道に張り付く訳にも行かなくなった。体力的にも、年々衰えている。悶々とした気持ちが続く。自由になる残り時間が限られているから、次第に焦りにも近くなっている。
玄倉林道
そんな中、2022年4月に、西丹沢の玄倉林道の通行禁止が解除になったのは、朗報だった。石崩隧道(3号トンネル)~洞角隧道(6号トンネル)の崖崩れが起こったのは、いつだったろうか。復旧に、長い時間がかかった。それでも、ユーシンロッジまでしか、林道は通じていない。そこから先は、相変わらず通行禁止だ。
何時の頃だったろうか、XR-250で林道を走って、ロッジの先まで行った。蛭が岳を直登すると、簡単に日帰りができた。それが、いつの間にか小川谷出会の先にゲートが出来て、オートバイは通行出来なくなった。ここまで、片道3km。未だ許せる。しかし、その後いつの間にか、今度は玄倉入り口にゲートが出来た。ユーシンロッジまで行くには、片道16km歩かなくてはならない。往復32km。日帰りでコケ採りをするには、殆ど限界に近い。コケそのもと戦う時間は、まるで残らない。
手元の1996年版の昭文社には、熊木沢沿いの蛭が岳直登ルートが、太い線で書いてある。2016年版には、線の跡形もない。とうの昔に廃道になったそうだ。
神奈川県の山が、ドンドン遠くなる
玄倉に限らない。金時山の北側登山道は、崩落したままだ。丹沢山の塩水橋ルートは、アクセス道路が閉鎖されている。「通れない」ルートは、数え切れない。
だから、神奈川県の山に登るには、天気予報よりも先に、登山道情報をまず調べなければならない。その結果、ガックリする事が多い。『ここも駄目か。』残念ながら、やむを得ない。コケ採りは、行ける所だけに行くしかない。標本箱の中のコケが、突然貴重品に見えてくる。
220502 均茶庵
全体地図
神奈川県 自然公園歩道 神奈川県
箱根・足柄
箱根ハイキングコース 通行止め 神奈川県
箱根のハイキングコース 通行止め 箱根町
南足柄ハイキングコース 通行止め 南足柄市
丹沢・大山
まとめ: 登山道別のエリアガイド 神奈川県(パークレンジャー情報を含む)
神奈川県が管理する登山道の状況 神奈川県
その他