2019年9月、西安の税関検査場に入ろうとして、一瞬どきっとした。秦の始皇帝陵の兵馬俑に沢山並んでいる兵士の形をした、大きな人形が出迎えてくれたためだ。人の背丈よりも高い。しかし、すごく可愛い。台座の下の方に、ちょっと読みにくいが、「秦亲宝贝」と書いてある。これがマスコットの名前のようだ。中国で、日本のようなゆるキャラを見るとは夢にも思っていなかった。
中国は、変わった。何しろ、均茶庵が西安空港に初めて降り立ったのは、2002年だ。未だターミナルが一つしかなかったが、JALが飛んでいた。今4番目のターミナルが工事中の西安空港に、日本から飛んでいる直行便は、海南航空1社だけになってしまった。
中国語で、「ちびキャラ」の事を、「Q版」という。日本に特有な、2~4等身で目が大きい漫画のことだ。だから、Q版でできているこのマスコットの姿を見ると、何となく日本由来の感じがする。2016年の第11回中国芸術祭の「吉祥物(キャラクター)」の部で、入賞した事を機会に、陝西省は秦亲宝贝を大々的に売り出したそうだ。その内、日本でも見かけるようになるかもしれない。
秦始皇帝の兵馬俑から出土した人形をモデルにしている。タダの兵士ではない。「一人の下、万人の上」の大将軍だ。燕尾高冠(ツバメの尾を象った冠)、鮮紅英帯(頸に巻いた紅い布)、華麗鎧甲(高級な鎧)の装いが象徴している。日本人から見ると、最大の特徴は、眼にある。細く切れ上がって、いかにも中国風だ。丹鳳眼と言って、美人・美男子の切れ長の目を指す。『鳳眼濃眉如画』と言われている。美人・美男子には、別の眼の形もある。杏眼と言う。思い切り顔一杯に作った大きな眼を云う。日本の漫画では、ごくごく普通だ。だから、もし杏眼をキャラクターに採用すると、まるで日本の漫画みたいになってしまう。それで、丹鳳眼にしたのだろうかと勘ぐってしまう。
メインキャラクターが3つある。天将(名前は、秦風)が、両脇に武士(秦衡)と風卒(秦啓)を控える。水戸黄門様みたいだが、ずっと愛らしい。その他、莹莹公主というお姫様と、匈奴王子という紀元前に大勢力を振るった異民族の男の子もいる。「莹莹」は、可愛いという意味で、良く女の児の名前に使う。みんな、もの凄く可愛い。帰りに、お土産に買おうと思っていたが、チャンスを逃してしまった。だから、西安空港の写真を除いて、百度から転載した。ちょっと数が多くなるが、大好きなので、全部掲載した。
「秦」には、始皇帝で有名な秦帝国以外に、陝西省の略称の意味がある。「亲」は、可愛いという意味で、亲亲と言うと、キスをする意味にもなる。「秦」と「亲」は、発音が一緒だから、音と意味を掛けている。「宝贝」は、赤ちゃんと言う意味だ。従って、「陝西省の可愛いベイビー」とでも訳せば良いのだろうか。但し、日本人に話す時には、ちょっと気を付けなければならない。大きな声で名前を言ってはいけない。「秦亲宝贝」は、中国語で『ちんちんベイビー』と発音する。 (191007)
中国陝西省の旅から日本に戻って僅か4ケ月後の2020年1月、隣接する湖北省で武漢肺炎が発生した。そして、あっという間に世界中に拡がって、外国旅行は一切出来なくなった。それどころか、家の外にも気楽に出られなくなってしまった。この伝染病は、一体いつまで続くのだろうか。この世のあまりの変転の激しさに、ただただ驚いている。そんなわけで、まるで緊張感に欠ける文章となってしまったが、ご容赦いただきたい。 (200331)