この辺の地図は、日本人にとってわかりにくい。まずは、アルゼンチン領のマゼラン海峡を越えて、対岸のTierra del Fuego島に渡る。海峡の中でも一番狭い、Punta Delgada「狭い岬」にゆっくりと近づいて来たフェリーは、しかし、覚束ない。タンクローリーが降りると、思い切り跳ね上がった。この船に乗って、バスとともに渡る。胸の高まりを冷やすには、丁度良い設定かもしれない。パタゴニア特有の薄暗い空も、マッチする。海峡は、静かだ。
そして、島を南北に横切り、終にビーグル海峡にやって来た。海峡の先は、チリ領になり、その先は南米大陸に繋がる。どうしても、英国の大海賊キャプテン・ドレークを思い出す。英国の勃興前夜、スペインとの闘いに明け暮れた船長は、この海峡を帆船で大西洋から太平洋へ抜けた。
山にこびり付く様に作られたUshuaiaの街は、急な坂道だらけだ。港からリュックを担いでホテルまで歩くと、息が切れてしまう。しかし、ふと振り返って海と雪を被った山並みを見ると、すぐに夢の世界に戻る。
ここは、パタゴニア羊が名産だ。春先、生まれたばかりの羊を間引く。未だ母羊の乳しか飲んでいない。Corderoと呼ぶ。炉でそのまま丸焼きにすると、骨までコリコリと柔らかい。塩だけで、絶妙な味がする。残酷さと美食は、裏表だ。
Ushuaiaの背に小さな丘がある。暫く前に、観光開発の不動産屋と地元の百姓が、死人を出すような大出入りをやったそうだ。今は、Coop Magui-Marという農協の共同管理地になっている。監視小屋を通って、この丘に入れてもらった。コケの宝庫だ。箸休め第一回に載せた写真は、ここで採取したものだ。日本ではまず見られない種が、まるで雑草のように、無造作に生えている。
ふと我に帰って、体を起こした。草の上に横になり、青い空を眺め、海峡に思いを巡らせながら、アンデスの山々を楽しんでいる内に、眠ってしまったようだ。景色は、1時間程前と、まるで変わらない。緯度が高いので、日没はまだまだ先だ。時間が止まっている。そう、ここは日本のちょうど反対側になる。
パタゴニア地図
マゼラン海峡
ビーグル海峡
パタゴニア羊
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