R.ontarienseは、整った顔立ちのコケで、均茶庵は大好きだ。小さく可愛いので、オオカサゴケR.giganteumの妹と言って良い。コウヤノマンネングサClimacium japonicumがコケの女王様なら、Rhodbryumは、お姫様にあたる。RhodbryumとClimaciumは、一緒に生えている事が多い。同じお城が好きなのだろうか。しかし、顕微鏡を使ってはいけない。葉縁に、びっしりと牙が生えている。きれいな娘ほど、恐ろしい。
コケ入門にも至らない大昔、この可愛らしさに誘われて、丹沢に登ると時々誘拐してきた。未だ「絶滅危惧種」と言うような単語を知らない頃だった。Daisoで買って来たガラスのポットに水を満たし、女王様をその中に沈めて置くと、まるで樹木が生えているように見える。事務所の机の上に置いて、疲れた時に眺めていた。勿論、二人のお姫様の方も、同じように育てていた。
ポットで育てたオオカサゴケは、親に似て、しかし必ずちょっと小ぶりな配偶体を生やす。一方、カサゴケモドキの方は、大根に黒い根が生えたような、あるいは、細長い鞭のような、親とは似ても似つかぬ子ができる。どうしてなのだろうと、今でも不思議に思っている。
尚、学名は、Rhodo(淡紅色の)-bryum (コケ)、giganteum(大)だそうだ。(野口, 1976)又、ontarienseは、地名Ontarioの由。(J. Hilty, 2007)
神奈川県のカサゴケモドキの産地は、箱根と丹沢に分かれる。その内、箱根では早雲山と箱根園での記録があるが、両方ともに再確認されていない。一方、丹沢では下記3ケ所が報告されている。(県RDB)
① 大室山山頂 1,582m {再確認}
大室山の山頂は、見晴らしがまるで無い。山頂と言っても、目立った突起が有るわけではなく、のっぺりと伸びた広場に、頂上の案内板があるだけだ。山登りには、まるで面白くない。従って、目線はどうしても地上に向く。西側の加入道山へ向かう登山道の方向に、トウゴクミツバツツジが沢山生えている。その間を一回りすると、地上に僅かにのぞく株を見つける。枯葉を払うと、群落が現れる。2011年11月と2016年5月に生育を確認しているが、年ごとに弱々しくなっている感じがする。
② 白石沢 約1,300m {再確認}
標高1,418mの加入動山から西丹沢自然教室に向かって降りて来ると、ちょっと急な坂を下ることになる。この辺りに、数は多くないが、散発的に生育している。更にちょっと下がると、白石の滝にでる。神奈川県では珍しく、大理石の露頭がある。
実は、2002年に2回目の海外出稼ぎに出た際に、コケの標本を全て処分してしまった。今考えると、大いに残念だ。
③ 丹沢山頂 (標高1,567m) {未}
山頂の山小屋みやま山荘の周辺に生えているそうだ。この山荘は、ご飯が美味しいので有名だ。均茶庵が泊まった時は、ビーフシチューだった。しかも、食器は正真正銘の陶器だ。何度も山頂に登っているが、残念ながら、均茶庵はここでは未だカサゴケモドキの生育を確認できていない。
④ 相模市緑区 石楯尾神社 (標高228m){文献記録ナシ} Rev. 181016
当社は、相模国式内13社に数えられる古い神社だ。(論社)大15代応神天皇(368~407)行幸の記録がある。
2018年10月に参拝した際、神社南側と石楯尾山を挟む道路の土手に、群落を見つけた。風化した泥岩の土壌の上に、草が茂っており、その中に沢山の群落が離れ離れに生育していた。やや日陰地となる。当初カサゴケR.roseumと疑ったが、中肋断面のステライド形状からR.ontarienseと同定した。
【野口】rhodo 淡紅色の bryumコケ
【e-Floras】 G. rhodon, rose, and bryon, moss, alluding to leaf rosettes
【Smith】meaning rose moss, alluding to the rose-like rosettes of leaves
【Crum】The name means rose moss, in reference to the fact that in our wide-ranging species, the upper leaves are crowded in attractive rosettes.
【秋山】「rhodo=赤色+bryum=コケ」 茎の頂の葉がしばしば赤色を呈することから
【田中】rhodoは赤い、bryumコケを意味する。体の柄部の葉が赤 みを帯びている事に由来する。
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{文献記録ナシ} 均茶庵が生育を確認。文献記録が見当たらない。
{再確認} 均茶庵が生育を確認。文献記録あり。
{未} 均茶庵は生育を確認できていないが、文献記録あり。
*引用文献及び略語については、「コケの参考書」をご覧ください。
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作成:180215 Rev. 181016