味噌ぐちゃ事件から6ケ月が経って、2023年9月にお医者さんの最終診察を受けた。この間は、何しろ味噌に関わる問題なので、ひたすら運動を避け、お酒も斜めに眺めるだけにしていた。均茶庵としては、よくぞ堪えきったと自画自賛していた。しかし、運命の時が来た。心の中では、予想をしていたものの、『しかし・・・。』と、最後まで理由も無くただただ可能な結論を否定していた。
『強い運動を避けるように。旅行も、一人旅は自粛するように。お酒は、飲み過ぎないように。あと1年程経ってから、もう一度様子を見ましょう。』一番あってはならないと思っていた悲惨な結果だった。均茶庵の人生で、これだけショッキングな瞬間は、それ程多く無い。
いままでは、海と川と山と旅に生きてきた。もうカヤックを漕いでツアーをする事は諦めなければならない。丹沢・箱根に登ってコケを採集するのも終わりだ。キャンピングで、一人爆呑みも終わりだ。海外旅行は、パックツアーでも控えた方が良いだろう。国内旅行も、バックパックはもう論外だ。勿論、やって不可能ではないし、事故をおこしても、もうこの年齢だから、今更命が惜しいわけでもない。問題は、他の方にきっとご迷惑を掛けてしまうことだ。『年寄りが・・・。』というわけには行かない。
そして、10月に入って、77歳の誕生日に、海・山・川・旅からの撤収を宣言した。去年運転免許証を返納した際に、ある程度覚悟していたが、涙が出るような宣言だった。体中に溜まっていた緊張という空気が、一気に抜けた。
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そうなると、徐々に全身に脂がついて行くのが、はっきりと分かる。運動不足の結果だ。『これはいかん。』と反省したが、取り敢えずは策がない。
始まり
そんな時に、友達からアイデアを戴いた。彼は東京在住だが、近所を毎日散歩していると言う。一回の歩行距離は、3~5km程度だそうだ。何と、雨の日も休まないそうだ。その効果はというと、ただただ???のようだが、全く運動をしないよりは、遙かにマシだろう。
毎日歩いた距離を万歩計で測り、距離に直す。その数字を、日本橋から京都三条までの宿場にプロットして、バーチャルながら東海道五十三次を歩いている気分になっているそうだ。なるほど、ただ歩いているのでは飽きがくるだろうが、バーチャルとは言え、一応の目標が出来る。均茶庵も、取り敢えずは取り組み案がまるでないから、真似をしてみようかと考えた。
早速スタート
今までになく朝早く起きる。大体5:10~5:20amだ。自己流の柔軟体操を約30分行う。体調を整えると、6:20am頃から歩き出す。そして、朝ご飯に間に合うように、7:40am頃までに家に戻り、シャワーを浴びる。歩行時間は、概ね1時間~1時間半だ。歩速を出来るだけ上げるようにするが、まあお歳による限界がある。
先ず家から湘南海岸まで歩き、海にそって散策した後、その日の気分により、色んなコースを選んで家に戻る。なんと驚く事に、仲間が多い。五体満足な若い人は専ら走っている。歩いているのは、老人か犬の散歩が主だ。それに、サーフィンやサップや海釣りが、海岸をぎっしりと埋めている。均茶庵が大好きなカヤックは、もう人気が無いのか、見かけることが少なくなった。
『均茶庵は、終にこの仲間に入ってしまったか。』と少々ため息をつきながら群れに入る。ちんちんを切り取られた飼い犬と一緒に行動を共にするなんて、なんとも悲しい限りだ。まるで、中国の宦官の行列に混じり、後宮を歩いているような気分になる。
それに、走っている人は颯爽としているが、良く見ると歩いている人は、まともな姿の人を殆ど見かけない。中風でも患った後なのか、あるいは、何かの大病を持っているのか、まるでZombieの行進のようだ。足を引きずっている人、杖にすがりついている人、・・・。しかし、人の事は言えない。きっと均茶庵もおなじような格好をしているのだろうと思う。しかも、こんな集団に、つぎつぎに抜かれて行く。
計測
友達の場合には、万歩計あるいはスマホのアプリを使って、距離と時間を記録している。均茶庵は、元々万歩計に少々抵抗を感じていたので、持っていない。幸いにして、山でコケを採集する際の位置記録用に使っていたGPS Loggerがある。台湾のTransystem社製のModel GL-770だ。山にコケを採りに行く機会が無くなったわけだから、転用することにした。少々古くなってしまい、時折エラーが起こるが、まあZombie Walkの記録用としては十分だろう。
注)このモデルは、もう製造終了になっている。
バーチャル東海道五十三次
万歩計のデータをバーチャル東海道五十三次として記録するアプリを教えてもらった。Googleで調べてみると、びっくりするほど沢山のアプリの種類がある。なるほど、バーチャル東海道五十三次をやっている人は、思ったよりも多いようだ。
公開されているアプリは、競争が激しいのか、良く洗練されている。絵が綺麗だし、使い勝手が良い。しかし、均茶庵の趣向とは、ちょっと合わない。どこが不味いのかと言われると、返事ができない。しかし、何となく合わない。均茶庵は、好き嫌いが激しい。
それだったら、いっその事自分で作ってしまおうと考えた。エクセルを使えば、簡単にできるはずだと思った。こんな風にイメージを描いた。
まず、Zombie Walkから戻って来たら、毎日のデータを、指定の画面にインプットする。その数値をエクセルで加工・計算して、別のページに自動的にグラフ表示する。
所が、大きな問題が出てきた。エクセルをもう長いこと使っていない。だから、関数の使い方を、あらかた忘れてしまった。汗をびっしょりかきながら、何とか思い出した。Indirect関数を使ってHyper Linkを作るわけだが、こんな事を思い出すだけで、半日もかかってしまった。関数の使い方を一つ一つ思い出すだけでも、頭が痛くなってしまった。それでもまあ、何とかできた。勿論、実際に数値を入れて試してみると、あちらこちらでエラーが起こる。その都度、汗しながら訂正した。味噌ぐちゃの後だから、その苦しみたるや、想像を絶する。
実際の画面
最終的に、下記のようなグラフが出来上がった。毎日の数値をエクセルにインプットするだけで、後は自動的に出来上がる。形も、概ね計画した通りだ。それなりに満足できる。今何処にいるのか、あとどのくらいあるのかが分かれば、基本的な目的は達成だ。
歩き始めは、3~4kmでもう足が痛くなった。しかし、段々馴れてきたのか、一ヶ月も経つと毎朝8~10km歩くのがごく普通になってきた。勿論、速度も上がっている。疲れも感じなくなってきた。
現在地
毎朝歩くというのは、思いの他距離が進むものだ。いつの間にか、鈴鹿山脈を越えて、滋賀県に入った。もうすぐ京都だ。未だ2ヶ月たっていない。この分だと、11月中には三条に到着できそうだ。まるまる3ヶ月はかかるだろうと考えていたが、予想よりずっと早い。
これまで歩いた中で、静岡県が気分的に一番辛かった。なにしろやたら広い。東西に長い。だから、各宿場間の距離はそれ程長くないものの、宿場の数が多くなる。愛知県はまだかまだかと思いながら、何日も過ごした。
宿場に泊まる度に、名物と謂われをGoogleで読む。何処も短い記述で済ませているが、これはと思った宿場は、Wikipediaやら、その他の資料を拾いまくる。広重も勿論見る。安倍川餅や焼きハマグリなどを見ると、思わず唾を飲み込むが、残念ながら実際に味わうのは日を改めてという事になる。
あと少しで京都三条に着いてしまうため、早々とその先のプログラムを作った。友達は、三条に着いたら、今度は山陽道を下関に向かって歩くと言う。均茶庵は、逆に三条から中山道を通って日本橋に帰る事とした。何時の話になるかわからないが、日本橋に着ける見込みがついてから、次のスケジュールを考えよう。中国紅軍の長征路というアイデアもあるが、距離的にちょっと無理かも知れない。公式では、12,500kmある。東海道五十三次は、495.5kmだ。大課題だ。
そんなわけで、味噌ぐちゃの後の新しい遊びのきっかけを、何とかつかめそうだ。
231113 均茶庵
追記)231119 均茶庵
遂に、京都三条大橋に到着した。東海道五十三次合計495.5kmを走破したことになる。思いの他早かった。9月16日にスタートして、今日着いたわけだから、2ヶ月しか経っていない。
今晩は、三条河原で宴の酒に狂う。そして、明日からは中仙道69次の旅が始まる。う~ん。二日酔いで、21日からのスタートになるかもしれない。
最後の行程11.8km。