今思い起こせば懐かしい話になるが、コケに興味を持った最初の頃は、一生懸命コケの和名を覚えた。お歳のため、記憶力が衰えていて、覚えるよりも忘れる数の方が多いんじゃないかと思う程だった。普通に見られるコケの和名を、やっと覚え終わった頃、何となく違和感を感じた。分類と和名が、必ずしもしっくりと行かない。例えば、クロゴケ属はクロゴケ科だが、クロコゴケ属はシッポゴケ科だ。ハリガネゴケ属の中には、オンセンゴケ、ギンゴケなど、ハリガネが付いていない名前もあるし、チョウチンハリガネゴケは、何とヘチマゴケ属になる。学名を使えば、ハリガネゴケ属はBryum一つにまとまる。
どうしようか。思い切って、学名を覚えてみようか。大決断だった。これが至難の業だった。何が何だかわからないギリシャ語やラテン語の変形を、片っ端から暗記する事になる。和名を覚えた時よりも、更にお歳が進んでいる。もうこうなったら破れかぶれと、平凡社の図鑑の順番に、まるでお経を読むように、科名をAndreaceae, Takakiaceae, Tetraphidaceae…と覚えて行った。トージョー高坂が、東海道線の駅の名前を、東京、新橋、品川、川崎・・・と順に歌っているが、それと殆どいっしょだ。そして、良く見かけるコケの属名を、少しずつ記憶に加えて行った。遂に使える程度まで覚えた。
問題は、この後だ。一週間もコケに接していないと、記憶がどこかに飛んでしまう。仕方ない。毎日寝る前に、布団の中で羊さんの代わりに唱えてみる。しかし、僕は寝付きが早いので、Hylocomiaceaeまで行き着くことは、まずない。それに、今度はいつの間にか和名を忘れてしまった。元には戻れない。学名・和名対照表を、常に持って歩くことになった。
ある日ふと気がついた。学名を丸暗記したものの、さて、各々にどんな意味があるのだろうか。タチゴケAtrichum 「a-無 trichum毛 帽に毛がないから。」なるほど、なるほど、中々面白そうだ。所が、図鑑を見ても、全属の説明が載っていることは、まずない。英語の辞書を引いても、そもそもの単語さえ載っていない事もある。それなら、手持ちの図鑑類を全部調べて、自分で索引を作ってしまえ。但し、図鑑には説明が全部載っているわけでもない。例えば、平凡社や保育社には、殆ど記載がない。ちょっとした苦労だが、年金生活者には、時間だけが有り余る程ある。
2019年に、蘚類リストの第一版が出来上がった。例えばキンシゴケ属Ditrichumの意味は次のようになる。
勿論、どう調べても分らない属名もある。ご興味のある方には、無料で差し上げるので、kokekoko.shonan@gmail.comにメールいただきたい。又、不明の属名についてご存じの方が居られたら、ぜひとも教えていただきたい。
尚、苔類とツノゴケ類については、下記が殆ど日本産をカバーしているので、このまま参照できる。蘚類とともに、Webで公開されている。
200608 均茶庵
もすもす話⑤ コケの属名の由来 併せて、参照して下さい。