神奈川県の絶滅危惧種(県RDB)を書いた「コケここ Mossburker」(蘚類)が、2020年9月末で一段落した。この後、「外伝」が続く予定だ。もしかすると、更に「苔類・ツノゴケ類」まで続けるかも知れない。
県RDBが一段落した所で、神奈川県と隣接する静岡県にも足を伸ばしてみようかと思い立った。静岡県は広い。だから、伊豆半島だけを選ぶことにした。それに、伊豆半島は、神奈川県の生まれ故郷と言っても良い。韮山で、鎌倉幕府の源頼朝や後北条氏の伊勢新九郎長氏が起こった。
均茶庵は、未だコケ採りに伊豆半島には殆ど入っていない。今までは、自分の本領が神奈川県と理解して、本領を安堵するだけで精一杯だったためだ。県境に近い、沼津アルプス、函南、十国峠・日金山、修善寺葛城山、伊東一碧湖の、せいぜい北緯35度以北までだ。
文献:
静岡県のレッドデーターブック(以下、静岡RDB)は、2004年に初版が発行されている。しかし、植物に含まれていたのは、維管束植物だけだった。その後、2017年の改定時に、菌類が追加されたが、蘚苔類については、未だ作成されていない。神奈川県は、1995年の調査を元に、2006年に県RDBを公開している。県RDBには、当初から蘚苔類が含まれていた。
又、静岡県では、未だ蘚苔類のチェックリストが作成されていない。一方、神奈川県では、神奈川県の先輩研究者の絶え間ない努力により、2002年に蘚苔類チェックリストが刊行された後、二回の改訂を経て、2019年度版に最新が刊行されている。
従って、伊豆半島の蘚苔類についての個別調査文献を調べねばならないが、文献数が非常に少ない。年次順に下記する。尚、神奈川県立生命の星・地球博物館が、2020年9月現在で、「伊豆半島植物史(仮称)のためのデーターベース」をWeb公開しているが、維管束植物だけが対象となっている。
1. 岡村周諦(1914, 1916)
2. 桜井久一・H.Reimers (1931)
3. 羽田朂(1956). 伊豆半島の蘚苔を語る. 静岡県立韮山高等学校「松籟」8:1-6
4. 高木典雄(1961). 蘚類数種の新産地. 蘚苔地衣雑報2:102
5. 杉野孝雄(1964).静岡県産蘚苔類目録(予報).28pp. (謄写印刷・自費出版).
6. 杉野孝雄(1966).特色ある伊豆のコケ. 東海の自然 196pp.五月社. 65-66pp.
7. 杉野孝雄・静岡県生物研究会(1967).静岡県産コケ植物. 静岡県植物誌. 91-141pp
8. 鈴木直(1977). 静岡県で採取された興味あるホウオウゴケ. 日本蘚苔類学会会報. 2:17-18
9. 杉野孝雄(1979).静岡県のコケ植物相.静岡の生物.184-193pp.日本生物教育会静岡大会実行委員会
10. 高木典雄(1981). 伊豆半島の蘚類フロラ. 国立科博専報告14
11. 佐々木シゲ子(2007).熱海市岩戸山北面(静岡県)の コケ植物.自然環境科学研究 20: 81-96
12. 樋口正信(2013). 静岡県天城山のオオタマコモチイトゴケとオオミツヤゴケ. 蘚苔類研究10(12)
CiNii/OPAC/J-stageなどで調べて見たが、上記の内1.~7.及び9.については、均茶庵はアクセス出来なかった。従って、8. 及び10.~12.を対象文献とし、その他に、均茶庵が独自に採取した標本を調べた。
対象文献の内、苔類・ツノゴケ類を扱っているのは、(1.~7.及び9.についてはっきりと確認出来ないが)3.と5.と11.のみだった。従って、今回のまとめは、蘚類のみに限定した。尚、苔類・ツノゴケ類については、下記文献がある。
細井啓子・山田耕筰(2011). 東海4県のタイ類とツノゴケ類の文献目録. Naturalistae 15:89-106
まとめ
上記の文献をまとめた表については、リンク「もすもす話⑯の添付」を参照。
1. 伊豆半島から報告されている蘚類で、神奈川県では未報告あるいは5件未満の種:
1.1. 伊豆半島から報告されている蘚類で、神奈川県では報告されていない種:
計16種。内、国RDB指定は1種。
国NT: Homaliodendron exiguum
1.2. 伊豆半島から報告されている蘚類で、神奈川県での報告数が、5件未満の種:
計23種。
2.神奈川県RDB種で、伊豆半島からは未報告の種:
計32種
以上の数値を見ると、伊豆半島と神奈川県は隣接しているにも拘わらず、産出する種に大きな違いがある。特に、神奈川県RDBが61種ある内、伊豆半島からは32種が未報告というのは、注目に値する。伊豆半島の調査が不十分なため、表面的に見えるだけなのか、あるいは、双方の生育種に大きな差があるのか、実調査で確認する必要がありそうだ。
200911 均茶庵