忠海自然史研究会の森川和彦さんのつくった『黒滝山のゲンカイツツジ』というリーフレットをいただいた。その表紙には「黒滝山頂上付近を中心とした一帯は春を告げるゲンカイツツジが他のツツジに先駆けて彩ります。私たちで株の数を数えたところ321株ありました。県内でこれだけ集中して生育しているところはありません。私たちの宝として大切に守っていきたいものです。」と書かれています。
その森川和彦さんの案内でゲンカイツツジの見ごろと云われる3月30日に忠海公民館のふれあい講座「ゲンカイツツジを見に行こう」が開催され、参加した。そのとき配布されたリーフレットをもとに黒滝山のゲンカイツツジについて紹介しよう。
「3月20日は春分の日でした。昼と夜の長さが同じになる日であり、自然をたたえ、生物をいつくしむ日とされています。
黒滝山でもウグイスの声が春を知らせています。木々の芽生えも始まり、さくら堂周辺の桜の開花もまもなくです。落葉樹もすぐに緑の装いになります。そんな中、黒滝山頂上一帯では多のツツジ類よりひとあし早くゲンカイツツジが咲いています。黒滝山の自然をさらに身近なものにしましょう。」(リーフレット『ゲンカイツツジを見に行こう』)
ゲンカイツツジは、約7万~1万年前の最終氷期では日本列島と中国や朝鮮半島が繋がっており、その時代、日本にも分布をひろげていた植物がありました。その後の温暖化とともに日本列島が大陸から離れても日本に生育がみられる植物で、大陸系遺存植物と言われています。」(前掲リーフレット)
ちなみに、ゲンカイツツジについて、『レッドデータブックヒロシマ2011』は次のように解説しています。「ゲンカイツツジは平成16年カテゴリー・環境省カテゴリーで準絶滅危惧種に指定」、その選定条件は、「a 個体数が減少している。b 生育条件が悪化している。」。そしてその概要は「【摘要】典型的な大陸系要素の落葉低木で中国大陸(北東部)から朝鮮半島を経て九州北部、中国地方西部、四国北部に分布する。(大陸系要素植物とは約1万年前の最終氷河期に日本列島と中国や朝鮮半島が繋がっていたとき、日本にも分布を広げていた植物で、温暖化とともに日本列島が離れても生育がみられる植物でゲンカイツツジはその典型である。他にエヒメアヤメ、ヒゴタイなど、いまでは貴重な植物となっている・森川註)3~4月に紅紫色の径3~4㎝の花を多数つける。【形態】落葉低木で高さ1~2・になる。葉は花後につき、互生、長さ2~6㎝、幅1.5~2.5㎝で、両面に円形の鱗状の毛がある。花期は3~4月で、花冠は紅紫色、径3~4㎝で漏斗状に開く。雄しべは10本、母種のカラムラサキツツジは枝や葉に軟毛がない。【近似種との区別】ヒカゲツツジは常緑で花は淡黄色。エゾムラサキツツジは北海道に分布し、花時にも葉が数枚残る」産地として「広島市南区・佐伯区・安佐北区、東広島市(豊栄)、竹原市、三原市(三原・大和)、府中市(上下)、大竹市、海田町、江田島市(江田島・能美)、呉市(倉橋)、廿日市市(佐伯・吉和・宮島)、安芸太田町(加計・筒賀・戸河内)、北広島町(千代田)、世羅町(甲山)、三次市(作木)、庄原市(庄原・総領・東城)」(『広島県の絶滅のおそれのある野生生物(第3版)-レッドデータブックひろしま2011-』)
忠海自然史研究会の森川和彦氏は『黒滝山のゲンカイツツジ』の中で次のように解説しています。「ゲンカイツツジは黒滝山では一番早く咲き、3月20日ごろから咲き始める。花芽は枝の先に1~数個ついて、1個の花芽から1個の花が咲く。花冠は直径3~4㎝深く5裂している花弁の形がほぼ同じ花弁の縁が波打つ。雌しべは1個、子房に腺状鱗片がある。雄しべは10個、花糸の付け根に毛が密に生える。楕円形の葉が枝先に5枚程度集まってつく。葉の両面・葉柄・若枝り鱗片状の腺点と長毛がある。」「ゲンカイツツジの発見・分布について、広島県では、戦前に、三段峡で発見されたのが最初。その後、県内各地で見つかり、広島県の生育地の数やその個体数は少なくない。広島県内の分布は岩峰や尾根筋の標高の低いアカマツ林下の乾いた貧栄養の土地を好んで群生する。山火事跡にも生育している。石灰岩地には生育していない。陽性植物であり、沿岸部でウラジロやアラカシが繁茂して光が奪われる環境になると生育は衰える。」
「忠海再発見90黒滝山の植物」で紹介した『広島県の植物を訪ねて』の著者坂本正夫氏はこの本の扉に黒滝山のカラムラサキツツジの写真を載せている。そして、その解説の中で次のように述べている。「頂上を目指して登る。途中不明のツツジの類を発見する。……頂上にも不明のツツジがあちこちに生えている。不明のツツジを一株持ち帰って鉢植えにしたが中心部の真直な茎の2,3本は植えて間もなく葉が落ちてしまったが、これを囲む他の細い枝は冬になっても落葉しなかった。葉の落ちた茎は枯れたのかと折ってみると生きている。3月の中頃、枯木のような1本の頂部に1つのふくらんだ芽が出来、日増しにふくらんで、3月の終り頃、横向きに可憐な一つの小さな花が咲いたのである。色は赤紫で、浅い漏斗形で径3㎝位、10雄ずい1雌ずい、花弁の外側に腺状鱗がある。
牧野図鑑で調べたがこのようなツツジはのっていない。大井氏の日本植物誌で、葉や子房などに腺状鱗片をもっているものをしらべてみるて、ヒカゲツツジ、エゾムラサキツツジ、ケゲンカイツツジ、ゲンカイツツジがあり、そのうちの、カラムラサキツツジであろうと思われるのであるが、これは、落葉性、潅木、高さ1~2・、腺状鱗片(小枝、葉は表裏、朔果の表面、花弁の外側)にある。花は茎や枝の頂端部に3~6で、広漏斗形、径5㎝、花色は紫色、10雄ずい1雌ずい、朔は円柱形、長さ1~1.5㎝、分布は本州(中国)九州(北部)と記載されている。(中略)ゲンカイツツジは、カラムラサキツツジのうちで、小枝、葉縁、葉の上面、葉柄などに粗毛が散生しているものをかく呼ぶ。
上原敬二氏の樹木大図説によると、ゲンカイツツジは3月中旬から4月上旬に開花する。分布は、本州の備後、備中、九州、対馬、外国では朝鮮、満州、北部中国ウスリー地方である。九州では大分県下毛郡津民村、集塊岩上に多く生じ耶馬渓に多い」(『広島県の植物を訪ねて』P97~101)
そして広島大学理学部付属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会編『広島県植物誌』(中国新聞社)にはゲンカイツツジについて次のように書かれている。
「島嶼部から中国山地の渓谷に点在する。広島県では、戦前に、三段峡で発見されたのが最初であるが、その後、各地で見つかり、その生育地の数と個体数の多さでは全国で指折りのものであろう。しかし、花が美しいために乱獲の恐れがあり、保護が必要である。花崗岩の岩峰や岸壁、アカマツ林、山火事跡などに生育し、石灰岩地帯には分布しない。大分県博物誌ではカラムラサキツツジとゲンカイツツジの両者が報告されているが、Yamazaki(1996)の見解によれば、日本のものはすべてゲンカイツツジである。」 いずれにしても黒滝山のツツジが非常に貴重な植物であることに間違いはない。3月30日に忠海自然史研究会主催の黒滝山のゲンカイツツジの見学会においては、この時期に咲く花はゲンカイツツジであると説明され、ひきつづき黒滝山ではコバノミツバツツジ、ヤマツツジが咲く、ということである。リーフレットの最後には「ゲンカイツツジを守るために」と題して、「黒滝山にはゲンカイツツジ、コバノミツバツツジ、ヤマツツジの3種のツツジが生育しており、それぞれ春の黒滝山を彩り、私たちの目を楽しませてくれています。そのなかでもゲンカイツツジは貴重なツツジです。私たちが昨年頂上一帯の株数を調べ321株を確認しました。これだけの群生しているところは県内でもまれです。満開の時期に花姿の素晴らしさを味わいましょう。花の見頃は3月20日から4月10日頃までです。大学の先生からは『竹原市の花』にしたらという提案もありました。町民あげて保護し、大切に育てていきましょう。」と結ばれています。