『中国新聞』2月8日の文化欄の「緑地帯」にコンピュータソフトウェア著作権協会専務理事の久保田裕氏が『花田少年史』と忠海の思い出について一文を寄せているので紹介しよう。
あるとき、漫画家の一色まことさんの原作の映画「花田少年史」(水田伸生監督)を見て驚いた。景色や町並みに見覚えがあった。そこは、父の仕事で、私が小学3年から中学1年まで暮らした竹原市の忠海だった。
映画や文章、絵、写真、音楽、ゲームソフトなどの創作物について、それを生み出した者の人格と経済価値を守る権利が著作権だ。私は30年近く、この著作権を保護する活動に携わっている。
著作権で保護される著作物は、思想または感情を創作的に表現したもの、と著作権法で定義されている。プロの作品に限らず、素人の写真やブログの文章、子どもが描いた絵や作文も保護される。
忠海での小学生時代、著作権という言葉は知らなかったが、その核となる「創作」と出合った。忠海西小で美術を教えていた信田敏之先生は、お茶の水博士のようなユニークな風貌で、精力的に表現活動を推進していた。ある日、私が描いた絵を見た先生から「この線はおまえしか描けない線だ」と褒められた。それで描くことが大好きになった。級友からは「色が変だ」とからかわれ、後に赤緑の色覚障害と分かるのだが、先生は、多彩で独特な色合いを「その色でいい」と言ってくれた。
忠海のキラキラ光る優しい海。夏休みには毎日のように、ミカンの段々畑から見下ろす箱庭のような風景を絵にした。これが私の創作の原点。著作権の仕事に携わる上で、心の原点になっている。(『中国新聞』文化欄コラム「緑地帯・著作権の扉」2014年2月8日)