朝日新聞(2013年10月10日号)に「エデンの海よみがえる忠海=失われた風景町の財産」という記事が掲載されたのでその全文を紹介しよう。
瀬戸内海に臨む旧忠海町を舞台に、63年前に撮影された映画「エデンの海」(中村登監督)。地元の市民団体が所有するフィルムが、製作元の松竹にも残っていない貴重なものだった。フィルムは経年劣化が進んでいるため、松竹側が補修して、DVDでよみがえらそうとしている。 「エデンの海」は、情熱家の若い教師と女学生の交流を描いた作品。原作は、作家若杉慧の青春小説で、忠海高等女学校(現在の忠海高校)に勤めていた自身の体験をもとに書いた。
これまで3度、映画化されており、1作目は松竹が1950年に製作。松竹の看板だった中村監督が、鶴田浩二さんと藤田泰子さんの主演で、忠海で撮影した。映画には校庭瀬戸内海にそのままつながっている学校の様子など懐かしい風景が随所に映る。
和泉雅子さん主演の2作目(1963年・日活)、山口百恵さん主演の3作目(1976年・東宝)のロケ地は別の場所だった。
91年、地元商店会役員の平田章二さんが、名古屋の映画会社所有のフィルムを借りて屋外映写会を開き、「懐かしい」と大好評だった。97年に市民でつくる忠海町コミュニティづくり推進協議会が、フィルムが廃棄処分になると聞き、70万円で買い取った。以後、地元の宮床まつりで上映してきたという。
平田さんは「映画には失われた忠海の風景がたくさん残っており、町の財産。ノスタルジーを呼び起こし、昔の風景を子どもたちに伝えられる」と話す。
今年、生誕100年を迎える中村監督の特集を企画していた松竹側は、保存されていない監督作品のフィルムを探していた。コミュニティづくり推進協議会が代表作の一つである「エデンの海」を所有していると知り、提供を依頼した。
松竹の担当者は「貴重なフィルムを保存していただき、本当にありがたい。劣化が進み、フィルムで残すのは難しそうだが、DVDにして地元にお返ししたい」と話す。10月12日と30日にはCS有料放送の「衛星劇場」でも放送される予定だ。
推進協議会の脇本茂紀副会長は「もともとの著作権は松竹にあるのだから、私たちは地域で自由に上映できれば問題ない。テレビ放送やDVDを通じて、多くの人に忠海の美しい風景を知ってもらいたい」と話している。
この記事を書いた朝日新聞の斎藤勝寿記者は、『朝日新聞』に連載中の「日活100年 青春編 和泉雅子』の中で「エデンの海と忠海」についての記事(『朝日新聞』2013年10月27日号)を書いているので紹介しよう。
原作は若杉慧の小説。若杉が女学校の教師をしていた広島県の忠海町(現在の竹原市)が舞台になっている。
日活の13年前に松竹が映画化しており、松竹編では忠海町でロケが行われた。日活編の西河克己監督は、実は松竹編の助監督であり、ロケ場所を決めたスタッフだった。
日活編でも同じ場所でロケしようと忠海を訪れてがくぜんとする。学校の校庭が海につながっているのが忠海の特徴だったのが、学校と海が分断されて、そこに道路が走っていたのだ。場所を変えざるをえなかった。
作品を町おこしにつなげようと活動する市民団体「忠海町コミュニティづくり推進協議会」の脇本茂紀副会長は「当時は道路整備も重要だったので仕方なかったのでしょう」と話す。
「エデンの海」は1976年にも山口百恵で再々映画化されたが、これも別の場所に。4回目が企画されたらどうするか。脇本は「映画の撮影は町おこしに大きなインパクトを与えます。瀬戸内の風景は『エデンの海』の世界に不可欠な要素。原作の町としては何としてでもロケを誘致するしかないでしょう」。