2008年に産業編集センターから清永安雄撮影『美しい日本のふるさと中国四国編』という写真集が刊行された。その冒頭に「『美しい日本のふるさと』刊行にあたって」という志摩千歳という人のまえがきが掲載とれているので、抜粋して紹介しよう。
「ふるさと」という言葉は、私たちの心に、忘れていた「何か」を思い出させてくれる不思議な力を持っている。それはいつも私たちの心の奥に住んでいて、普段は眠っているけれど、寂しいとき、つらいとき、心がすさんでささくれだっているとき、そっと目覚めて、乾いた心にさまざまな懐かしい情景をよみがえらせて潤してくれる。そのとき人は、大人に身につけたいろんな心の鎧を取り払って、本来の自分自身に立ち返ることができるのだろう。
そんな日本人のふるさと、誰の心にもある原風景ともいうべき場所を、くまなく巡りたい。そして日本人がどこからやってきて、どこへ帰っていくのかを、その原風景を通して確かめてみたい―そんな雲をつかむような目的で、この企画はスタートした。(中略)
取材対象としたのは、日本人の心の原風景が見られると思われるあらゆる場所、特に山村、山里、漁村、田園、小集落等を中心に、伝統的建造物が残っている町や村、城下町や寺町などで、たとえ古いたたずまいが色濃く残っていても、いわゆる大都市、中都市といわれる町は除外した。(中略)
後付けのようでやや心苦しい気もするが、従ってこの本の全編に流れる姿勢は、「一期一会」である。どの村も、どの里も、そのとき一度きりの出会いで私たちの琴線に触れた風景を切り取ったものだ。写真の風景を見て、読者諸氏は、ここは桜のシーズンが最高にきれいなのに、とか、どうせなら雪景色を撮って欲しかった、とか思われるかもしれない。が、そこは本書の「一期一会」の精神に免じてお許しいただきたいと思う。(清永安雄撮影『美しい日本のふるさと中国四国編』まえがきP2~5)
この本に「美しい日本のふるさと」として取り上げられている広島県内のまちは、鞆の浦/因島重井/忠海/竹原/志和堀/倉橋島/宮島/庄原/上下町/井仁/安芸太田/安芸高田である。
そして心に残る忠海の風景として切り取られているのは、何と、河畑たばこ店のショーケース、華龍健在の頃のあかだま旅館、そして今は取り壊されてしまった旧忠海郵便局の建物である。そしてこの3枚の写真に「忠海は瀬戸内海に面した小さな港町。江戸時代や明治時代の面影を残す町並みが点在する。なかでも中町界隈に古い建物が散見できる。という文書が付されている。