竹原市教育委員会が発行している『文化財のしおり』には忠海の天然記念物として、3つの樹木が指定されていると紹介されている。国の天然記念物には、忠海 開発八幡神社の社叢が指定されており、県の天然記念物には床浦神社のウバメガシ樹叢と長浜楠神社のクスノキが指定されている。
《忠海開発八幡神社社叢》
「八幡神社の社叢は、モッコク群叢として暖帯における代表的常緑闊葉樹叢として、貴重なものである。モッコクはツバキ科に属する常緑小喬木で、樹姿優美 で、庭木として古くから用いられている。分布はインド、中国南部、台湾、沖縄、日本の南部であるが、この社叢のような大木はその例がない。この樹叢中には クスノキの大木5本、ウバメガシ、クスドイゲ、ツルマサキ、コバノジュズネノキなどがあり、この地が昔は直接海岸に突出していた海岸樹叢であったことを物 語っている。モッコク群叢の組成は、喬潅木は勿論、地床植物に至るまでのことごとく常緑樹で、樹叢内の日光の直射少なく陽性の植物の生存を許さない状態が 安定した群叢で、樹木の伐採は勿論、間伐ないし枝打ちも禁じ、下生えの除去も、また根土を踏み固めないよう十分保存に注意したいものである。」(竹原市教 育委員会『文化財のしおり』P13)
広島県監修『広島県文化百選⑦花と木編』にも「忠海八幡神社のモッコク」が紹介され、国の天然記念物に指定された経緯が述べられている。
「本社叢は、昭和10(1935)年、三好学元東京大学教授の調査により、『モッコクが多数生育している点で顕著である』との評価を受け、翌11(1936)年に国の天然記念物に指定された。
昭和12(1937)年、堀川芳雄元広島大学教授はさらに詳しく調査して群落の構造を明らかにし、『モッコク群叢』という新しい群落単位を創設、提唱し た。その時モッコクの分布図を作成したが、その総数は約60本であった。それらのうち、目通り幹囲1.2・を越えるものが10本近くあると記録されてい る。
それより29年を経た、昭和41(1966)年、鈴木兵二広島大学名誉教授が再調査したところ、モッコクの枯損木が多く、本数がかなり減少していた。しか し、木が肥大成長しているので、目通り幹囲1.2・以上のものはちょうど10本数えられた。」(広島県監修『広島県文化百選⑦花と木編』P58~59)
《忠海床浦神社のウバメガシ樹叢》
「ブナ科一名バベとも呼ばれる。常緑の低木または小高木、葉はやや茶色を帯びた緑色で、先が広い卵形または長楕円形、上半部に鋸歯がある。長さ3~6㎝、幅1.5~3㎝。
質は堅く表面に光沢があるので、照葉樹と呼ばれる。材は堅く木炭として使われ、備長炭と呼ばれる。本州神奈川県以西、四国、九州、沖縄、中国大陸に分布す る。中国大陸では内陸の乾燥地に生育しているといわれているが、わが国では海岸の岩場や土壌の浅いところに多く、まれにはかなり内陸にも生育している。紀 伊半島南部、四国南部、瀬戸内海沿岸部はウバメガシ林が最もよく発達しており、純林をなしているところもある。
ウバメガシは普通高さ3~5・の低木である。床浦神社の境内には、指定当時7本のウバメガシの大木が生育していたが、現在は6本しかみられない。そしてそ の内最大のものは、目通り周囲1.84・のものがある。もと瀬戸内海沿岸一帯にこの種の大木が樹叢を形成していたことを証明する貴重な樹叢である。」(竹 原市教育委員会『文化財のしおり』P21)
《忠海長浜楠神社のクスノキ》
「クスノキは関東以西の暖地に多く分布し、樹齢は長く、大喬木となる樹種である。忠海長浜楠神社境内にあるクスノキは、胸高周囲9.4・、樹高32・もあり、県内のクスノキでは第2位の巨木にランクされている。」(竹原市教育委員会『文化財のしおり』P22)
ちなみに前掲の広島県監修『広島県文化百選⑦花と木編』では、県内の大きなウバメガシとして沼隈町の阿伏兎観音のウバメガシ(P108~109)が、また 大きなクスノキとしては広島市新庄の宮の夫婦楠(高さそれぞれ30・、胸高幹囲それぞれ6.5・、5.5・。前掲書P20~21)、海田観音免のクスノキ (高さ30・、目通り幹囲は分岐直下で6.6・、前掲書P38~39)、尾道市艮神社のクスノキ(目通り幹囲7.6・に達し県内第1位。前掲書 P80~81)が紹介されている。