忠海のコミュニティづくりをリードしてきた団体が黒滝山を愛する会と忠海町コミュニティづくり推進協議会、聖恵授産所後援会である。この3つの団体のたちあげにリーダーシップを発揮したのがアトム株式会社社長の細田勲次氏であった。
細田氏は『忠海町コミュニティづくり推進協議会会報』創刊号(1991年7月4日)に「町民の町民による町民のための町づくりを!」という一文を寄せている。あらためて忠海のコミュニティづくりの意義をかみしめるという意味もこめて紹介しよう。
『黒滝山を愛する会が発足して3年7カ月になりますが、この間忠海町の皆様の積極的なご協力により順調に発展を続け、黒滝山の整備も一段と進みました。……山のみどりの育成を更に進め、町の活性化にも結びつけるべく、町内諸団体が相集まり『忠海町コミュニティづくり推進協議会』を結成、活きいきした町づくりに邁進することになりました。
(中略)元毎日新聞論説委員の四方洋氏が福祉取材に訪れた際に、井原牧生所長の方針である障害者自身の自立とそれを支える聖恵授産所後援会を中心とした地域の密着協力ぶりに話が及び「こんな形の福祉は全国でも稀だ」と大変感銘を受けられたそうです。井原所長はよく、インディペンデントという言葉を使われます。自主独立という意味で、障害者も健常者も独立人格としてお互いを認め合い協力してゆくことこそ福祉の本来の姿だと思います。それが、この忠海では当たり前事となっています。当たり前の事が却って全国では稀な事例になっているのです。先日アトムの仙台営業所に秋田出身の人を採用、忠海で一カ月研修させました。人なつこい本人の人柄もありますが、ご近所のお店の人ともすっかり仲良しになり、帰る時、「忠海では、大変親切にしていただいた。一生忘れない」と涙ぐんで話しておりました。一見、何げない親切、温かい心が人を感動させるのだと思います。今の世の中に一番欠けているのが、温かい豊かな心ではないでしょうか。過剰な競争心、バブルを追う射倖心。そんなものは何時か消えてゆきます。我々は消えて消えないもの、豊かな心を大切にし、それを町おこしの原点として、人を育て、イベントに夢を託し、外から来る人を温かく迎え、交流することこそ世界に通用する本当の観光ではないかと思います。ここで観光という言葉を使い増したが、我々の運動は観光そのもののためではなく、我々自身のためであるということです。アメリカ民主主義の原点と言われているのが、リンカーンのゲティスバーグ演説です。即ち、「人民の、人民による、人民のための」という有名な言葉を「町民の、町民による、町民のための」と置き換えてイベントを推し進め、我々自身が楽しむことが、あくまで基本です。アメリカの民主主義のテーマに魅かれて多くの人々がアメリカに渡ったごとく、我々のテーマに外からの人々が魅力を感じて集まって来るこそ、本当の観光だと思います。幸い我々にはエデンの海ともいうべき多島海となつかしい黒滝山を控えています。この青と緑に象徴される自然は我々の宝です。これを愛し、守り育て町の活性化につなげるのが「忠海町コミュニティづくり推進協議会」の目的です。
この文章の全文は『忠海町コミュニティづくり推進協議会20周年記念誌』『黒滝山を愛する会10周年記念誌くろたき』に収録されています。