『アミービック』
金原ひとみの3作目(だと思う)『AMEBIC』(アミービック)を読む。いい実験だ。
文中、「私」が「錯文」を呼ぶように、ほとんどschizophrenic と健常との境を荘周の胡蝶のように往還する錯乱の文体。読みやすくはないが、読んでいると段々面白くなってくる。
ストーリーといえるほどのものがあるわけではない。「私」の意識と、「私」の意識にあらわれる他者とのやりとりがあるだけだ。
けれども、負の胡蝶のように正常と異常の幽明の境を往きつ戻りつする「私」の意識の薄闇に、ときおり閃光のように鋭い言葉が走り、相手を刺し、読者を刺し、世界を刺す。そして、前作にも、賞をとった処女作にも無かった特徴は、意識的に作り出されたユーモアだ。
皮肉なユーモア、毒のあるユーモア、相手との、世界との、読者との、そしておそらくは自分とのズレが生み出すユーモア。今回の収穫はそれだ。
金原ひとみは失敗を恐れずにかき続けている。
blog 2005年07月12日