山田詠美「学問」
すごいタイトルだけれど(笑)、中身とはどうもそぐわない。でもとてもいい小説。
これが人生のほんとの学問じゃないの、ということなのかな。最初に、愛弟子だの兄弟子だのという言葉が出て来るのも、そういう含みなのでしょう。
そんなことはともかく、大体子供の視点で書かれた小説は、ちょっと辛いところがあって、あ、またか、と思うことが多い。それでも『風味絶佳』のような凄い小説を書く作家が、「またか」的な子供小説を書くとは思えないし、少年の視点で書いたのでも、『ぼくは勉強ができない』のような面白いのもあったから読んでみた。
最初は、です・ます調の文章に、大丈夫かなぁ、とまだ不安だったけれど、いつの間にか引き込まれて、やっぱり並みの作家とは違うわ、と楽しんでいた。そして、ラストに近づくにつれて、これはヤバイぞ、と予感しはじめ、案の定、最後は涙腺が緩んでしまった。
少年少女から青年期にかけての、これは文字通りadolescenceの物語。一人の少女の目で描かれた、青春の性と愛と友情に目覚め、成長し、そしてそのかけがえのない時間の喪失を限りない愛惜の情を込めて語った物語だ。
ウブな少年、少女の姿が本当に初々しくて、性の目覚めを描いてユーモラスでもあり、彼らを見る作者の眼差しは温かく、いとおしげだ。
私たちの周りにも、こんな少年はいた。みんなが一目おく、器量の大きい、強くて心易しい、仲間たちの中でのヒーローが。でも、いまの世の中には、そんなヒーローの生きる場所がない。夭折も辛いが、彼が二十歳になり三十男になり、中年のオヤジになり、やがて老いていくのを見るのも哀しい。
この物語は、ただ少年少女の成長物語Bildungsromanを時の順に追うというのでなく、各章の冒頭に登場人物の死亡記事を掲げ、死を見届けた視点からこそ、それに続く物語で語られるような、それぞれの生の輝きがほんとうに見えてくるのだと言いたげだ。
それにしてもタイトルはもうちょっと何とかならんかったかねぇ?
blog 2009/07/06