東京奇譚
久しぶりに良い小説を読んだ。
いろいろ読んできたけれど、やっぱりいま日本の現役作家で、忙しい中、新作を追っかけてでもぜひ読みたいし、読んで決して期待を裏切られないのは、村上春樹しかない、という思いが強い。
もちろん世に多い読書家に較べれば私などが手にする小説は浜辺の砂粒ひとつのようなものだけれど、それにしても最近鳴り物入りで売り出している若い世代の作家の作品は、現代日本の文学の病理みたいなもののサンプルとしては興味がないわけではないけれど、作品としてもう一度読みたいと思うようなものはほとんど皆無だ。
しかし村上春樹の今回の新作は、往きの電車の中で一気に読みきって、心から満足し、帰りにまた読みたくなって、好きな3作は一日のうちに2回読んでしまった。こういう経験は面倒くさがりやの私としては珍しい。
冒頭の「偶然の旅人」は一番好きな作品。いくつかの、メモしておきなくなるような殺し文句もある。こんなに短編なのに、人生の珠玉がさりげなく埋め込まれている。
「ハナレイ・ベイ」も哀しい、とてもいい物語だ。
それから、冒頭の作品と同じくらい好きなのが「日々移動する腎臓のかたちをした石」。これは本当にステキな話だ。
この三作品だけで、私には十分だ。「どこであれそれが見つかりそうな場所で」はそれほど心惹かれなかった。「品川猿」は違和感を感じた。
blog2005年09月21日