チンピラ(青山真治監督)1996
以前に川島透監督の「チ・ン・ピ・ラ」(1984)を見たことがあったので、あれ?と思ったけれど、Movie Walker によれば、同じ金子正次の遺稿シナリオによる映画化で、こちらのほうがよりオリジナルに近い形での再映画化なんだそうです。川島監督のを見たのはずいぶん前ですが、柴田恭兵の主演で、あれも結構面白かった記憶があります。でも青山監督のこの作品もとても良かった。
四国から上京して田舎者と時にさげすまれながら度胸と腕っぷしで兄貴分に可愛がられる藤川洋一(大沢たかお)も、田舎から出て来て職探しをしていた彼を拾ってきわどい世界へ導くことになるけれども自分はやくざにはなりきれず、洋一にもやくざになってしまうことはやめろやめろと言い続けるチンピラ梅沢道夫(ダンカン)の友情と、やくざにも堅気にもなりきれない中途半端なチンピラのきわどい生き方と破綻までを描くエンターテインメント性たっぷりのドラマ。
日本の男優はやくざやチンピラをやらせるとうまい、というのは以前から聴いていましたが(笑)、主役の二人だけでなく、二人の働くクラブの社長でもろヤクザの大谷(石橋凌)や、何かと洋一とぶつかり、最後は道夫を殺すことになる大谷の手下だった冷酷なヤクザ松尾(寺島進)なども地でいってるんじゃないの、と思うほどぴったり。
道夫とできてしまった大谷の女が、大谷に責められて蹴られるときに、自分はどうされても仕方がないけれども、赤ん坊のいるおなかだけは蹴らないで、と言ったら、大谷が悲しそうな目をして・・・というようなことを言う場面があります。そういうちょっとしたところで、人間の描き方が見えるところがあって、味のある作品になっています。
松尾からその女を奪った形の洋一。その女ユウコが、彼の誕生日に贈って彼の部屋に懸けてある風景画を見ながら「こんなとこで暮らしたいな~。東京疲れちゃった」と言うと、洋一がユウコのやっているお芝居(彼女は女優をめざしていた)をまねて、自分が芝居をして、ユウコがそれに感動したらチンピラ稼業から足を洗う、というふうなことを言って、口癖のようにときどきつぶやく「花の都にあこがれて、飛んできました一羽鳥・・・」という田舎出の彼にふさわしいセリフを芝居がかって言って見せるけれど、途中で忘れちゃった、とやめて寝転んでしまう場面があります。こういう場面がとてもいい。
因みにこれは同じ金子正次の脚本による「竜二」の主人公竜二が酒を飲みながらつぶやくセリフ。
花の都に憧れて、飛んできました一羽鳥
ちりめん三尺ぱらりと散って
花の都は大東京です
金波・銀波のネオンの下で、男ばかりがヤクザでもありません
女ばかりが花でもありません
六尺たらずの五尺の身体
きょうもゴロゴロ、あすもゴロゴロ
ゴロ寝さまようわたくしにもたった一人のガキがいました
そのガキもいまは無情に離れ離れ
一人淋しくメリケンアパート暮らしよ
きょうも降りますドスの雨
刺せば監獄刺されば地獄
わたくしは本日ここに力尽き引退いたしますが
やくざもんは永遠に不滅です
何度か洋一が口にするこの竜二のつぶやき、この映画にもよく似合っています。ごく普通の友情でむすばれ、ごくありふれた男女の出会いをして、ごく普通のおだやかな人生を夢見た。ただちょっと欲が出たために、死んだ親分の部屋を掃除する際に裏通帳を持ち出したために、やくざの標的になってしまった道夫。引き返せない道へ踏み込んでしまいながら、そんな「ふつう」の人生へのはかない夢をもちつづけるチンピラの姿に一抹の哀れさ、切なさを感じさせる佳品。
blog 2018-12-2