妖刀物語~花の吉原百人斬り(内田吐夢監督)1960
顔に大きなあざがあることから、赤ん坊のときに守り刀と手紙を添えて神社の門前に捨てられていたのを、子のいない優しい夫婦に拾われて育てられ、後を継いで 養蚕・生糸の製造販売の商いをする店を大店にまで繁栄させた男が、取引先の江戸の旦那衆の仲立ちで見合いをするが、今回も断られてしまう。そこで旦那衆にワッと気晴らしをしようと強引に吉原へ引っ張って行かれるも、大夫たちはみな気持ち悪がって近寄らない。
そこへ唯一、深川の私娼あがりで、公儀の取り締まりの網にかかって、吉原の置屋兵庫屋に配分され、他の女郎たちからは見下され差別されている水谷良重演じるおつるだけが平気で彼の相手をし、自分はここで差別されているけれども、いずれ松の位の大夫に上り詰めてほかの女を見返してやるんだ、と夢を語る。
女に触れたこともない彼は女の境遇とその夢にほだされ、自分がその夢をかなえてやると言い、彼女を「揚げづめ」(自分の専有物として他の客をとらせない)にするために50両もの大金を置いていったん国元へ帰る。
兵庫屋の主人はその世間知らずに目をつけて欲をつのらせ、一層この男から金をしぼりとろうと画策し、おつるを大夫に仕立て上げるために、琴、お茶、鼓の稽古をさせる。そして彼には大夫の審査を受けて大夫になるまで揚げ詰めにする費用、道具類の新調、廓じゅうへの挨拶など、しめて1000両かかる、と告げる。
男はそれでも何とかして彼女の夢をかなえて大夫にしたうえで、彼女を身請けし、妻として引き取ろうと夢見ます。
女のほうには小悪党のチンピラの彼氏がいて、ゆすりにきたりするけれども、兄さんだとごまかして10両出させたりするけれども、大事な金づるを台無しにされてはと、兵庫屋の手下たちがその男を殺してしまう。
一方彼の郷里ではひょうが降り、蚕の餌である桑が全滅して、大変な経済的損失を生じる事態になってくる。おつるは大夫になる修行も終えて審査も合格し、もう大夫のおひろめをするばかりになっている。でも、彼はもうお金がない。兵庫屋の主人にせめて半年近くお披露目を延期してくれ、と談判するも、主人は態度をがらりと変えて、いまさら金がないなんてとんでもない、と彼をののしり、追い出す。
彼は商売が立ち行かなくなっては大変だし、もうそれに対応できる資産がなく、江戸の旦那衆に千両を借りる。そのときに約束させられたのは、噂になっていたおつるとの関係を断つことだった。
しかし、その手形を懐にして兵庫屋の前を通りかかるとついひっかかってあれこれやりとりしているところへ金を貸した旦那衆が通りかかり、あれだけ約束したのにまだ女とかかわりをもって吉原に来ていることを難じて、貸した1000両をすぐに返せ、と言って手形をとりあげてしまう。
彼は赤ん坊の時自分に添えて置かれていた刀は名刀に違いないから1000両になるかと番頭に買う店を探させたが、実はこれは妖刀村正で、売買禁止の誰もひきとってくれない刀だった。
万策尽きた彼は郷里へ帰り、身の回りを整理して、終始自分に忠実につき随っていた若い番頭に店を譲り、彼に遠慮して祝言をあげていなかった同じ店の機織り娘との祝言をその場であげさせ、自分が赤ん坊の時添えられていたという守り刀一本を持って出ていく。
夢がかなって大夫になったおつるは大夫のお披露目の花魁行列で吉原の目抜き通りをゆるゆると高下駄で闊歩していく。そこへ編み笠の彼が妖刀を抜いて切り込む。そして花吹雪の中、女を殺して、吉原の悪者たちみな出てこい、と叫ぶ・・・
この花魁のおひろめ道中や最後の斬りあい花吹雪は歌舞伎的な絢爛たる映像で内田吐夢監督らしさが見られるところかと思います。
最初にクレジットが出るところは、映像が絹糸をたぐるたくさんの糸車が回転する様子で、なんだかイントレランスを連想してしまいました。いいスタート画面です。
片岡千恵蔵は真面目に仕事一筋で先代の後を継いで店を大きくした実直者だが顔のあざのために見合いはことごとく断られ、それでもと希望をもって紹介してもらっては店の者がハラハラする中でやっぱりだめ、という繰り返し。そういう男が生まれて初めて自分のあざを気にせずに受け容れてくれた岡場所上がりの女郎に思い入れして、その野心が成就するよう身代を傾けてしまう世間知らずで一途な性格の男を熱演。
この人はいかつい顔に似ず、ちょっとこっけいな役柄、とぼけた役柄もこなせば、こんな世間知らずの純情男もこなす、ほんとに器用な人だなと思いました。
水谷良重も岡場所あがりと女郎仲間に馬鹿にされて、松の位の大夫になり上がって見返してやる、という野心を抱いて、千恵蔵演じる田舎者のお大尽に巧みに取り入り大夫になるために利用しつくし、最後は金策ができなかった彼に、金の切れ目が縁の切れ目、と容赦なく突き放す、ふてぶてしい女にあの顔がぴったり(笑)。
Blog 2018-10-18