バビロン ベルリン
先日、たまたまテレビのチャンネルボタンを適当に押していたら、ちょっと面白い光景が目にとまって、そのまま見ていたら、これがドイツのテレビドラマ「バビロン・ベルリン」シリーズのエピソード2だったかで、ストーリーも何もわけがわからないままなのに、食い入るように見てしまいました。
それだけ登場する街路やキャバレーみたいなバカ騒ぎの会場の光景や、人物たちのファッションなど、映像に登場するすべてが素晴らしかったからです。
物語のほうは最後までよく分からないまま(笑)。たしかこのチャンネルのこの時間帯は、以前もこういう外国もののテレビドラマでなかなか重厚な面白いものをやていたのを思い出して、しばらく見ないでいたら、これは大変なものを見過ごしたようだな、と思ったので、少しネットを調べてみたら、やっぱりえらいものを見過ごしてしまいました。
もっとも全体は16話で、毎回2話ずつやるらしいから、あと14回分は観られるはずですが、それにしても物語のスタートする第1回まるごとと、第2回も満足に見ていないので、ちょっと辛い。ネットに出ていた英文の梗概があったのですが、それは各エピソード2行ずつくらいで、簡単すぎてよく分からない(笑)。
個人のブログやら英語のサイトやら、つなぎあわせてみると、舞台はどうやら1929年のベルリン。警察の捜査官のラートが、父親の知り合いの政治家を脅迫しているポルノ映像を撮っているベルリンマフィィアの関係するらしい人物を追い、その映像の中身を明らかにして事件を解決するために、ケルンからベルリンへやって来たとことから物語は始まっていたようです。
この主人公自身が、戦争の後遺症(PTSD)に苦しんでいて、麻薬を手に入れて服用しているらしい。彼は捜査の便宜上、ベルリン警察の風紀課の掲示になって捜査にあたります。その過程でPTSDのためにトイレに倒れ込んでいるところを、このドラマで重要な役割を果たすらしいシャルロッテという女性に助けられるシーンがあったようです。この女性がまた面白い人物で、昼間はベルリン警察で事務員をして、夜は貧しさのために娼婦をしているという(笑)・・・
ラートの捜査の話とどういう関係があるのか、初回も観ていない私にはまだ分からないのですが、トロツキストたちの集団が、裏切り者のスパイのたれこみで、スターリンの暗殺者たちらしい連中に隠れ家を襲撃されて、トロツキストのリーダーらしいカルダコフだけがトイレの雪隠桶の中に隠れて危うく助かる場面があります。どうやら政治的な勢力のせめぎあいも、このドラマでの大きな柱になっているようで、人物たちの絡み合いはなかなか複雑で奥行きがあります。
描かれた時代はドイツのワイマール共和国の時代。私たちが歴史でちらっと習ったところでは、わずかに人権を謳ったワイマール憲法のことや、ヒットラーが台頭する直前の、自由な雰囲気というよりは頽廃的な雰囲気に満ちた時代という漠然とした印象だけが残っているだけです。
あとは非常に混乱した社会の中で力を得ようとしていた共産主義者たちが、ナチの陰謀で、国会議事堂放火事件の罪を着せらて一挙に犯罪者集団として弾圧され、それをきっかけにナチが第三帝国の確立に向うという程度の貧弱なイメージしか持っていません。だから、こういうワイマール共和国時代のドイツを描いたテレビドラマを見る機会など極めてまれで貴重な経験ですから、それだけでも興味深いものがあります。
そしてどうやらこのドラマシリーズは、この種の商業映像の制作に巨大な投資をするハリウッドなど米英系の作品を除外すれば、世界最高の制作費をかけて、時代を忠実に再現したドラマなんだそうです。どうりで街路から乗り物、建物の外観からキャバレーなどの内部空間、インテリア等々に至るまで、また人物のファッションなども、すべて非常に忠実に当時の時代性を再現しているらしく、ホンモノとしてのクオリティが感じられる映像になっています。
私には個々の細かいことは分からないけれど、一瞬見ただけで、全体の印象が、これは本格的に時代を再現したそういうホンモノの映像だな、というのが直観できたので、映像というのはほんとうに正直なものだなと思います。また、素人でも人間の感覚というのは、そういう映像のどこをどう見て取るのか自分でもわからないのですが、ホンモノかニセモノかを瞬時に感じ取ってしまうようなところがあるようです。
そして、その映像をみて、すぐにライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの「ベルリン・アレクサンダー広場」を思い出しました。まぁ背景も同じドイツの、ナチが勃興する時代の退廃的な混乱期のベルリンが舞台とあれば当然でしょうが・・・。
ファスビンダーのはずいぶん前衛的な映像で、エンターテインメント性なんか全然考慮しないような、或る意味で辛気臭い、延々とつづく感じのけだるい物語で、あの世でけったいな天使が出てくる場面があったりして(笑)、とてもお茶の間向きのテレビドラマなんて信じられない作品でしたし、実際、放映時間帯を次々にゴールデンアワーから降ろされて最後は深夜番組になったらしいけど(笑)、この「バビロン・ベルリン」はあれほどではないにせよ、相当なものです。
ただ、テンポの速さや、個々の映像の美しさ、先鋭さというのは、いかにも現代の先端的な映像美で、レトロのセンスが今の一番トレンディなものになっているとすれば、今の若者たちにもすごい、と感じさせる映像だろうと思います。政治的な軸も取り込みながら、それがイデオロギー的な変なよどんだ重さを感じさせず、物語の中で不可欠な要素として有効に機能しているとでも言いましょうか・・・
ふつうのエンターテインメントドラマのように、通俗的なリアリズムによらず、その構成や映像は茶の間向きのテレビドラマとは思えないほど実験的なようです。だから第1話をみず第2話の途中から見ても、なんのことかさっぱり分からない(笑)。
同時並行で異なるグループの話が進行していて、説明なしに場面が切り替わって、それらがテンポよく進行していくので、こちらにその枠組みがないと、ついていくのがしんどいところがあります。でも、各場面の映像のすばらしさが、それを通り越して魅力的なので、つい見入ってしまった次第。
とりわけキャバレーの場面は秀逸。ダンスホールでみんなが踊りに興じ、怪しげな、実はスターリンのスパイらしい男装の女性歌手(なんでしょうね?・・笑・・・まだ全貌をつかんでいないのでよくわからないのです)が歌う、そしてあのSMみたいに鎖を半裸体につけた女性・・・あれがシャルロッテの夜の姿なんでしょうか。
それからどうやらスターリンが殲滅しようとしているらしいトロツキスト集団を暗殺者たちが襲撃する場面が頻繁なカットで説明抜きに並行して進んでいく、あの時間帯の映像というのは素晴らしかった。夢中で見終わってから、しまった!途中からでも録画しとけばよかった!と悔やむことしきり。
次回からはしっかり録画して見ようと思います。強くおすすめのシリーズです。
(blog : 2019-10-08)
BS12のドイツ製ドラマ「バビロン ベルリン」がますます面白くなっています。ワイマール共和国時代、ナチスが政権をとる前夜と言っていいドイツ・ベルリンの町や建物、風俗、ファッション、人々の間に満ちる頽廃と享楽の空気を見事に再現した背景の中を非常に個性的な人物たちが交錯し、はじめはわけのわからない幾筋かの系列に属すらしい事件が並行するように起きて謎めいた、それでいてきわめて起伏にとんだスピード感のあるドラマが展開されていきます。
テレビドラマとしてドイツはもちろん各国で絶大な人気を集めたというけれど、とても子供や孫と一緒に茶の間で見られるとは思えないほど残酷なシーンもある・・いやパートナーが目をつぶるようなシーンもあるし、だいたい主人公の男性が義姉と不倫中の(どうやら人殺しまでやっちゃたらしい)麻薬中毒の警官(笑)、さらにもう一人の主人公と言っていい女性が昼は刑事、夜は売春婦(笑)というすさまじい設定だし、ほとんどいわゆる善人が出てこないんですね。
でもこの主人公たちが「悪人」かというと、そうは言えない。つまり両方の面が一人の人物の中に同居していて、極端な人物像を創り出しているけれど、それがとても面白い。ほかの脇役たちもほとんどそういう人物で、ここでは善玉が悪玉と戦って悪玉を追い詰めるっていうエンターテインメント的人物設定や勧善懲悪的ストーリーのパターンはなくて、非常に頽廃的な世界での人間のありようというのをそのまま、非常にとんがった手法で描いていて、それがたまらなく魅力的。
先日の回では、主人公の男性刑事の不倫してきた相手の義姉が息子をつれて彼のところへやってきて、子供をほったらかして二人はもうラブラブの有頂天。ベッドでの朝方の義姉の夢だろうけれど、この二人がもう楽しくて楽しくて仕方がなく踊りだすシーンがあって、それが素晴らしかった。この男性の主役の役者は身のこなしが並みの俳優のレベルでなく上手かったから、もともとダンサーだったのかもしれませんね。表情もシリアスな役からひょうきんな役までこなせそう。
相変わらず女性の方の主役が夜のお勤めにいく、人々が頽廃と享楽に酔いしれるダンスホールのシーンは素晴らしくて、このシーンが出てくると嬉しくてしょうがありません(笑)。それにこの女性の主役をつとめる女優さんが、決していわゆる美人女優ではないのだけれど、猛烈に魅力的なのです。前回はとてもサービス満点のシーンも見せてくれたし(笑)。
でも一番良かったのは、彼女が刑事の若い男性助手の家を訪ねていく場面。彼女自身は、働く気もない兄と相性の悪い姉と病気で動けない祖父と妹を抱え、彼女が夜の商売をせざるを得ない極貧の家庭で、なんやかんや言いあいながらも大黒柱だった母親が死んでしまい、その葬式代さえ彼女が新たに肉体を犠牲にして稼ぎ出さなくてはならない状況。また、体を張って就職に成功した警察でも自分が心を寄せて応援しようとしている主人公の刑事に突き放される形で身の置き所がなく、疲れ、傷つき、深い孤独を抱えて、ひとりふらふらと、人のよい助手のところを訪ねます。
このドラマの登場人物の中でただ一人「善人」と言っていいこの若い助手は、二人とも聾唖の両親と住んでいますが、両親ともども、傷ついた彼女をこころよく迎え入れ、落涙する彼女に事情を尋ねることもなく食事を与え、泊めてやります。彼のフラットの扉をたたき、食事の席についたあたりの彼女の演技はすばらしかった。思わずこちらも涙が出てくるほど。
そして、この若い刑事(助手)は両親が聾唖者なので読唇術ができて、重要な陰謀の一端に触れることになり、それを司法長官に直接連絡しようとしますが不在で、警察へ行こうとするとき複数の男たちに追われて夜の工場で射殺されてしまうのです。これでこのドラマから善人が一人残らず消えてしまいました。
実にとんがったドラマで、それがたまらなく魅力的で秀逸な作品です。
Blog 2019-11-03
ところで、今日も、昨日みた「バビロン ベルリン」が面白かったなぁ、と余韻が残って、なんでこんなに面白いんだろう?とぼんやりした頭で繰り返し考えていました。
前々回の最後に、主人公ラート刑事から殺された助手の持っていた手帳(悪玉の上司の自宅の引き出しから主人公が盗んできて速記で書かれていたので、もう一人の主人公である警察官でもあり売春婦でもあるシャルロッテに解読を依頼して渡していた)を持っていたヒロインシャルロッテが誘拐されるシーンがあって、昨日はその彼女がマフィアらしいやつにいためつけられて、金塊のことを教えるように強要され、マフィアの経営するレストランの調理場の奥の冷蔵(冷凍?)室に閉じ込められます。
彼女を捕らえたのがクーデターを起こそうとしている黒い国防軍の連中ではなくて、金塊ねらいのマフィアらしい連中だったおかげで、黒い国防軍のことを探っていた助手の手帳には関心がなくて、偶然彼女は囚われの身で手帳を手にすることになり、助手が書いた偵察メモを解読することになり、金塊を積んだ列車がソ連に送り返されるのを黒い国防軍の連中が襲って横取りしようとしていることを知ることになります。
殆ど死にかけの状態になっていたシャルロッテは、エドガーというのだったか、表向きナイトクラブの経営者であるマフィアのボスに、「この店は時々変わった料理を出す。店で出すその料理の食材になりたいか(コワイですねぇ・・)、それとも協力するか」と言われて、協力する、と答えて、男に情報を伝え、ひきかえに釈放されます。
でも、行っていい、と言われて奥から店の間へ出ていくと、そこにそのボスと自分の可愛い妹が向き合って食事をしているのを目撃します。
妹は何も知らず、こんなにおいしいものを食べるのは初めて、みたいにはしゃいでいて、高級車で迎えに来てもらった、と喜んでいます。そして、またいつでもどうぞ、と男に言われ、次も迎えに来てくださいね、などと言っている。
するとボスはにこやかに、「もちろん、家も知っているからね・・・」と。
このシーン、シャルロッテの身になってみているこちらも、ゾゾゾーッと身震いが起きるようなコワーイ場面です。暴力的にいためつけられているときよりも、こういうのがほんとに怖い。その辺の脚本、演出が実にうまい。
それから、いよいよ黒い国防軍のクーデーターを企てた当日、引き金になるのは、ドイツ外相がフランス外相を迎えて親睦を図り、都心の劇場でオペラを見ているときに、舞台の上での劇中の発砲音に合わせて、狙撃手が狙撃する、それを合図に劇場の旗を降ろし、外部の連絡網が伝達して一斉に武装蜂起することになっています。
これに男のほうの主人公の刑事ゲレン・ラートの上司で黒い国防軍の幹部でもあるらしい男ヴォルター上級警部が狙撃手の一人として、銃を持って劇場のシャンデリアの内部に潜むのですが、その夕方、家を出ていくときに、奥さんに彼として別れを告げる場面があります。
ヴォルターは思想的には狂信的な国家主義者で黒い国防軍のクーデター計画の首謀者の一人ですが、家庭人としては良き夫で、もう一人の主人公の女性に対しても、スパイとして利用はするけれども、個人的に彼女が極貧ゆえに窮しているときに助けたり、とても人間として温かいところもある。国家主義的な思想のためには冷然と人殺しもするけれど、そういう一面も持っている複雑な人物像です。
美しくもなんともない、どこにでもいそうな、でっぷりとしたおばさんにしか見えない奥さんに、長年連れ添って苦労と掛けたがお前が妻でよかった、というようなことを言って別れを告げるのですね。彼として覚悟を決めて出ていくわけです。悪役もまたこういう奥行きのある人物像なので、見ていて飽きません。
あるいはまた、その前に、ラートの不倫相手だった兄嫁の息子が、黒い国防軍が武器弾薬を隠していた地下室を偶然みつけて、狙撃に使う特殊な銃をさわっていると、ヴォルターがやってきます。殺されるんじゃないか、とみていてハラハラしますが、ヴォルターはその銃に興味を示す少年に射撃を教えてやろう、と言ってかぼちゃかなんかを標的にして実際に自分が撃ってみせ、少年にも撃たせてやるのです。見ていると、この少年はもうじきやってくるナチスの時代には、ヒトラー・ユーゲントの一員になっていくんだろうな、と思わせられます。まさにそういう時代を描いているわけで、一人一人の人物の姿がきちんとその時代の風景のうちに埋め込まれて生き生きと動いています。
シャルロッテが捕まっているときなども、この圧倒的な、冷酷なマフィアたちには手も足も出ない、絶対に逃げることも不可能だし、屈服する以外にない、そういうリアルな状況がにくいほど的確に描かれていて、よくそこらのテレビドラマにあるような、見ていて、それはないだろう!と言いたくなるような安易なドラマのご都合主義がみられないところがすごい。
灰は灰に、塵は塵に、光は奪われたが、終わりではない・・・
この陰鬱なテーマ曲が耳について離れないよなぁ、とパートナーと今日も言いあって、はやくも来週の金曜が楽しみで待ち遠しい老夫婦です。
Blog 2019-11-17
昨日は毎週金曜日を待ち遠しく感じていたドイツのテレビドラマ「バビロン ベルリン」が第15-16回をやって終わってしまいました。最後の2回もとても面白かった。主人公の一人シャルロッテが殺されたときはほんとにおいおい、と思いましたが、最後までとてもきのきいた脚本でハラハラわくわくさせてくれて、金塊列車のからくりやそれが分かるいきさつなんか、ほんとに感心してしまいました。
時代が時代ですから、どんどん状況は悪い方へ悪い方へいって、みんな死んじゃうって感じで、主人公のラートだって、昇進ったって言ってみればゲシュタポとかナチのSS(親衛隊)とかにつながる裏稼業が本業の政治警察みたいなものになっていく警察組織で、その中枢を担う有能さを認められたってことだし、不倫相手の義姉との関係に溺れ、覚醒剤みたいなのを打ちながらやってる彼をみれば先行きどうなるかは大体予想ができそうです。唯一の救いはその逆のベクトルに沿って、めでたく希望どおり殺人課の正規の助手になったシャルロッテだけですね。
だけど、この終わり方だと、シリーズ第二期とかで、もっと続けられるんじゃないかな。主人公たちがほんとうにひどい時代状況に巻き込まれていくのはこれからが本番でしょうし、ラートの不倫相手も息子に奨学金を出した軍需産業の大立者と会って会食して、さあ何が始まるのか、というところだし、きっと彼女の息子はこれからヒトラーユーゲントに入るに違いないし(笑)、シャルロッテの女友達で行政長官の私邸のメイドになっていて、「恋人」と思っていた男の所属する組織に徹底的に利用され手刑務所に入ることになった女性も、さあこれからどうなる、というところだし・・・・生き残った登場人物はみんなこれから、って構えですよね。
ドイツではやっているんじゃないか、それを期待したい。こんな面白いドラマにお目にかかれるなんてめったにない経験だから、今度は最初から1分でも見逃さないようにしないと・・・
シャルロッテを演じた女優さんは、ちっとも美人でもグラマーでもないのに、ものすごく魅力的でした。この時代のファッションがこんなに似合う女優さんもめったにないでしょう。ぜひ続編でまた彼女が見たいものです。
それより、これくらいの水準のドラマを日本のテレビも作ってくれないかなぁ・・・
Blog 2019-11-22