ジャンヌ・ダルク裁判(ロベール・ブレッソン監督) 1962
これは素晴らしい作品でした。モノクロで1時間ちょっとの作品で、ほとんどが法廷での審問官とジャンヌ・ダルクのやりとりですが、美しく、緊張感が張り詰めた映像と展開で、申し分がない。
ジャンヌを演じた女優はビデオのジャケットによればフロランス・カレという女優さんらしいけれど、すばらしかった。なんというのか、こういう歴史上の英雄であるような周知のヒーローを描いたり演じたりするとき、どうしたってある程度思い入れ過剰な演出や演技をして、大仰な感じになってしまうんじゃないかな、と今までの色んな史劇に類する映画から類推して思うのですが、彼女にはそういうところが微塵もない。
ほんとうにこんな風に凛としてしかもヒロイックなそぶりもみせず、堂々と冷静かつシャープに審問官と渡り合えるような女性だったんだろうな、という信仰の人の姿がそこにあって、感動させられます。
法廷以外は捕らわれた独房で、ときに横たわり、ときに涙し、ときにベッドに腰を下ろして考える普通の、弱い人間でもある彼女を映し出していて、それもまた繊細で美しい映像でとらえられています。
彼女がどんなに雄弁に語っても、本当は審問官たちには彼女が理解できないんでしょうね。もちろんそれは審問官たちが何としてもジャンヌを屈服させてその聖性を地に貶めたいイギリス軍の意向を汲んだ政治的なショウを演じる三文役者だから、ということもあるけれど、独房の彼女を覗き見る警固兵たちの眼差しや呟きはある意味で私たち観客のものでもあって、実は私たちにも本当のところ彼女がどういう人間で何を感じ、思い、何がしたいのか、得体のしれないところがあるように思います。
その謎を秘めたまま彼女はいったん屈服のサインをしながら、それを火刑への恐怖からだったと翻し、二度の謝罪は許されないとしてあらためて審問官に火刑を命じられて、最後は火刑に処せられて亡くなります。そこまでを淡々と描いていきます。「意味」はむしろ私たちに投げかけられ、わたしたちの内部でのちのち静かに芽を出してくるような印象で、この作品自体の中に意味ありげに内在してはいないという印象の作品です。
Blog 2018-10-18