エリ・エリ・レマ・サバクタニ(青山真治監督) 2005
浅野忠信、宮崎あおいの共演で、中原昌也、岡田茉莉子、筒井康隆といった癖のある(笑)出演者によるトンガッタ映画です。仙頭武則プロデュース、と書いてあったと思います。
あまりストーリーを要約なんかしても意味なさそうですが(笑)、2005年につくられた作品で舞台は2015年だそうだから未来SFなわけでしょう。タイトルはイエス・キリストが十字架にかけられたとき叫んだという「神よ、なぜわれを見捨てたもうや」というEli, Eli, Lema Sabachthani なる言葉です。
冒頭のシーンは赤茶けた色の海、波、砂山の向こうから防塵マスクみたいなのとゴーグルみたいなのをつけた男が2人(浅野忠信と中原昌也)上がってきます。砂山の遠くになにか柱状のものが幾本も立っているけれど、ほかになにもない荒涼たる風景。
やがて彼ら二人はテントみたいなものの中にはいっていきますが、そこには倒れている男の血のついたズボンの脚が見え、ハエのたかったトーストや卵料理みたいな朝食らしい食卓があり、男がカーテンをあけると男の生首らしきものがのっかっています。かたわらに幸せそうな子どもと夫婦3人家族の写真があります。
まぁこういうきなくさいスタートで、2人はミュージシャンンのようです。それもエレキギターと電子機器や色んなそのへんにあるものを使って音を作り、ノイズそのものみたいな「音楽」を創り出してけたたましい音を響かせて演奏したりしています。
どうやらこの世界では感染すると強い自殺願望に囚われて死んでしまう「レミング病」なる感染症がひろがっているらしく、どこへいってもそういう死者だらけ。ところがどうやら、そのレミング病に感染しない、或いは治療する唯一の方法が、この二人の男たちの演奏する騒音そのものみたいな不協和音溢れるノイズミュージックを聴くことらしいのです。
ここに孫娘ハナ(宮崎あおい)がレミング病にかかってしまった金持ちの旦那らしいミヤギ(筒井康隆)が手下に使っている探偵ナツイシ(戸田昌宏)の運転する車で旅をして、孫娘の病を治すために例の2人のミュージシャンを探して、彼らがたまり場にしているらしい、ナビ(岡田茉莉子)が経営する宿屋へやってきます。そこで2人のミュージシャン、ミズイ(浅野)とアスハラ(中原)に演奏を頼みますが、二人は拒否します。
このミズイはかつて恋人がレミング病に感染して、彼の演奏を聴いたにも関わらず、飛び降り自殺してしまった苦い経験があり、恋人の自殺がレミング病によるものだったのか、それとも自分の意志で自殺したのかと思い悩んでいたのです。
いったん演奏を断ったミズイでしたが、翌日、レミング病に感染していたアスハラがいなくなり、探し当てて見ると首をつって死んでいます。このことがあって、ミズイはハナのために演奏をひきうけ、広々とした野原でエレキギターを手に、猛烈な勢いで例の騒音そのもののごときノイズミュージックを演奏します。
この場面がこの映画のハイライトで、たしかにたまらん騒音ではあるけれど、それなりに音楽っぽい聴く者を直撃するようなインパクトのある響きを持った音が、フルボリュームでスクリーンから溢れ出してくる感じです。この場面が延々とつづきます。まぁ、ノイズミュージックなどというものはさっぱり分からない私ですが、この映画の中で最も魅力的な迫力のあるシーンであることは間違いないでしょう。
ストーリーとしては、この演奏でハナはどうやら治癒したらしく、倒れた孫娘に筒井康隆が駆け寄って抱き上げます。ハナは宿で眠っていて、そのあいだに筒井康隆は探偵の車で帰って行ったというのですが、途中、探偵は車をとめ、車外へ出てピストルで自分の頭をぶち抜いて死んでしまいます。
最後にミズイがアスハラの墓参りと称して、アスハラの骨の入った骨壺と、彼の姿を映し出すディスプレイを祀った祭壇のところへ、宿の女将ナビ(岡田茉莉子)がハナを連れて来て3人がお参りする場面があり、ここでひととおり法事らしきものをしたあと、ミズイがアスハラの映った画面をじっと見ていて最後に微笑む、なかなかいい場面があります。
Blog 2018-12-2