八月のクリスマス(ホ・ジノ監督)
韓流ドラマが流行している。「冬のソナタ」も「美しき日々」も俳優とりわけ女優が美しく、出演者の演技に懸命のひたむきさが感じられ、メロドラマとしてのストーリー展開が心憎いまでに巧みで、人気があるのも頷ける。それはかつての日本のメロドラマ「君の名は」や「愛染かつら」と本質的になにも変わらない。愛があり、わかりやすい愛のもつれ、三角関係があり、嫉妬や憎悪やいじめなどの試練が幾重にもあってヒロインを鍛え、すれ違いがドラマを進行させ、愛するものがなかなか結ばれないもどかしさがある。
ファンの夢や希望を裏切ってはならないし、簡単に叶えてもいけない。美しさにも醜さにも強さにも弱さにも善にも悪にも誇張があり、物語の進行にはご都合主義がある。
同じ純愛ものでも、ホ・ジノ監督の「八月のクリスマス」は、そうした誇張もご都合主義もない。登場人物たちは、私たちが感じるであろうように感じ、私たちがそうするであろうように振舞う。そして、その中にひっそりと愛が息づいている。夢見る観客には残酷な結末である。けれど私たちは、人生はそのように進行し、そのように終るのであろうと納得する。
ハン・ソッキュは韓国では実力ナンバーワンの人気俳優だという。私たちの目にはオトコマエでもなければ、マッチョな魅力もなく、カリスマ性を感じさせもしない。なぜこの俳優がそんなに人気があるのかと思うけれど、その一見平凡な中年男に見えて、そうでないところがすごい。考えてみるとこういう俳優に匹敵する俳優が日本に居るかといえば、思い当たらない。役所広司などが近いのかもしれないけれど、少し人がよさそうに見えすぎる。
モデル出身だというシム・ウナも新鮮な印象でとてもいい。
設定はありふれているといえばいえるが、それをハン・ソッキュの抑えた演技で淡々と描いていくところに、彼の強い意志と愛情が自然ににじみ出てくる。
世界の中心で愛を叫んだりしないし、一度も愛しているというような言葉は吐かないけれど、黙って彼女の仕事姿を見守る視線にすべてが感じ取れる。
カメラは冬の光を拾って、クールで翳りを伴い、味わいがある。
(blog 2005.02.16)