長恨(伊藤大輔監督・脚本・原作)1926
これも「斬人斬馬剣」と同様、サイレントで、片岡一郎氏の活弁と鳥飼りょう氏のピアノ伴奏付きでの上映でした。
ただし、こちらはオリジナルフィルム全9巻のうち、現存する最後の1巻、わずか15分ほどのフィルムで、最初から最後までチャンバラのシーンです。
大河内傅次郎演じる勤王の志士壱岐和馬が、愛する女雪江と、一馬の弟でやはり雪江を愛する次馬を逃がすために、同志二、三人と後に残って圧倒的多数で迫る新選組を中心とする敵と斬りあう場面で、最初から最後まで傷ついた和馬の大立ち回り。もう意識もおぼろげで足がふらつき、倒れ、ころげ、へたりこんでは、斬りかかる敵を一人また一人と斃して自らも斬られてて徐々に弱り、それでもまだ死なれぬ、と髷を振り乱しながら、二人を逃がしたいという気力だけで粘りに粘って、とうとう力尽きて果ててしまうまで、15分間斬りまくります。
その間に、彼に助けられて逃げていく盲目らしい次馬と、手を携えていく雪江の姿が何度も挿入されます。緑の堤のようなところで、逃げていく2人の姿が小さく画面の右上隅にとらえられているようなシーンが印象に残ります。
単調と言えば単調なこの死に至る斬りあいの場面が、大河内傅次郎の変化にとんだ大立ち回りと、決死の形相の彼をアップでとらえたり、ロングショットで集団対一人の斬りあいをとらえる多様なカメラワークが飽きさせない画面を創り出しています。襲う方も、町方の捕り手が使うような戸板を持ち出したり、縄を投げたり、取り囲んで一斉に斬りかかろうとしたり、なかなか変化にとんだ襲撃をしてくれます。
圧倒的多数の敵が和馬の周囲を囲み、ぐるぐると回って襲い掛かる状況が、和馬のもうろうとする意識でとらえるように、すごい速度で走馬灯のように彼の周囲を回る映像なんかは、映像的にこの状況を客観と主観を融合させて的確にとらえるようなダイナミックな映像で、おうおう、と思わせます。
わずか15分ながら、集中して決定的なこのクライマックスの場面を堪能できました。これは伊藤大輔監督が日活に入社して第一作だそうで、大河内傅次郎と組んだ初めての作品でもあるそうです。平成7年に個人のコレクターが所蔵するフィルムが寄贈されて、平成23年にIMAGICAの協力でデジタル復元された由。必死の形相で戦う瀕死の和馬を演じる大河内傅次郎の表情がつよく印象づけられる15分です。
Blog 2018-11-3