29監訳者解説(太田龍)

監訳者解説ーーー太田龍

本書の著者ヘンリー・メイコウは、カナダ在住の同化主義的ユダヤ人として育ったという。

およそ現代ユダヤ人にとっては、以下の三つの立場が可能である。

[二自分が住んでいる社会、民族、国家、文化、宗教などに同化すること。

[二]イエス・キリストを信ずること。

[三]同化主義を拒否し、同化しないことを主義とする。 同化しないということは、必然的に、タルムード主義、カバラ主義という立場をとることを意味する。

このような同化主義者として出発したヘンリー・メイコウはまず、イルミナチイの謀略としてのフェミニズムのペテンという重要問題に取り組んだ。

メイコウが反イルミナチイのウエブサイトを立ち上げてほぼ毎週一回公表し始めたのは、筆者の記憶では2000年代初頭のことである。

したがって、合計四百ないし四百数十篇の反イルミナチイのニューズレターが公開されている。

本書『イルミナチイ世界を強奪したカルト』(2009年)には、そこから厳選した必読論文四〇篇が収録されている。

なお、メイコウの野心作『フェミニズムと新世界秩序』(2007年)にもほぼ同数が収められている。

メイコウはごく初期の段階で『シオン長老の議定書』の研究、調査に集中した。

「議定書」は二〇世紀初頭ロシア官憲によって暴露されたのち、1911年、ロシア共産革命が開始されると、それは偽書か、裏書か、激しい論争の的となつた。

しかし、そんなことはどうでもいいお話である。

本当の問題はその執筆者、その講師、その講演者、それは誰かということで、今日に至るまで、多くの人物がその候補者として指名された。

しかし、それらの候補者は全世界の人々を納得させることは出来なかった。本書でメイコウは、この問題にズバリとした回答を与えた。

メイコウの見方は以下の通り。

まず第一に、『シオン長老の議定書』の講演者は、ロスチャイルド家の一員でなければならない。

第二に、彼は英国ロスチャイルド家第二代ライオネル・ロスチャイルドでなければならない。

英国ロスチャイルド家は、18世紀末英国に上陸した。

ライオネル・ロスチャイルドは19世紀初めに生まれ、1870年代まで現役で活動した。事実上ライオネル・ロスチャイルドは、イルミナテイの最高首脳だったのである。

メイコウが明記した定義によれば、「シオン長老」とはイルミナテイの奥の院のことである。

イルミナテイは特定の任務をエージェントに委任する。 イルミナテイは無数の走狗を使い捨てのコマとして利用する。 最後は四番日のゴイムである。

ゴイムとは羊人間であり、家畜人間である。 これがイルミナチイの支配構造である。

イルミナテイのメンバーおよびその幹部候補生が地球人口の〇・一%と仮定すれば、それは約600万人となる。この数が正確かどうかは筆者には確証がない。

一%と仮定すれば6000万人となり、それでは余りにも多すぎるという印象を与える。

フリッツ・スプリングマイヤーの未完の大著『イルミナテイ、トラウマベースドマインドコントロールスレイブ』(筆者の手作りコピー版を頒布中である)によれば、「アメリカは二百数十万人のイルミナテイ精神的奴隷を訓練済みである」という。

しかし、イルミナテイによって完全にマインドコントロールされた奴隷は、どんな関係に立つのであろうか。それは難しい問題である。

イルミナチイは、約600万人(0.1%)の中枢およびその候補生、約3000万人(0.5%)のエージェント、約12億人(20%)の走狗、約48億人(80%)のゴイム、

羊人間、家畜人間に分かれる。

イルミナチイのエージェントが0.5%としても、これはかなりの数ではないだろうか。そんなに有能なエージェントが3000万人も存在するのだろうか。

この間題について、メイコウは、『レッド・シンフォニー(赤い交響曲)』を重視している。「赤い交響曲」とは「ラコフスキー調書」のことである。

ラコフスキーとは多年にわたるベテランのコミンテルン活動家である。1930年代、スターリンによってトロッキー派として裁判にかけられ粛清された。

しかし、GPU(ゲーベーウ:Gosudarstvennoye Politicheskoye Upravlenie)取調官に対する尋問の中でラコフスキーは、スターリンに対する取引を企図した。

このGPU尋問調書は通訳官によってそのほぼ完全な写し記録が作成され、のちに西側に持ち出され、フランスの白系ロシア人の新聞に公表された。これは英語にも翻訳された。

また、永淵一郎による日本語訳が存在している。この永淵訳は『ロックフエラー帝国の陰謀』に附録として収録されている。きわめて長文のものである。

ずいぶん前のこと、日本人のあるプロの翻訳家が「ラコフスキー調書は信憑性のない偽書である」と発言したのを聞いて、私は、日本の斯界におけるプロの翻訳家がとてつもなく低劣であることを確認した。

要するに、ラコフスキーは、共産主義革命家としてではなく、イルミナテイによって使い捨てにされる走狗でもなく、イルミナテイのまぎれもないエージェントとして、イルミナテイの中枢としての中央銀行カルテルのエージェントの位置付けで、スターリンをヒトラーに対する戦争に誘導したのである。

ここには、イルミナテイにとってのエージェントの役割と資格が明確に定義されている。

こんな高度な芸の出来る人物が3000万人も存在するかどうかはなはだ疑問である。

これに反して、イルミナチイの走狗はあっさりと使い捨てにされる。しかも大量に使い捨てにされる。 実際中国共産党は、中国人民を使い捨てにした。さらにスターリン政権も6000万人の走狗を使い捨てにした。

イルミナテイについての理解の要点は、エージェントと走狗、これを決してごつちゃにしないことである。

この区別を明確に認識できないものは、イルミナチイについて何も知らないことを意味する。

「日本はイルミナテイサタニスト世界権力によって占領されている」というふうな言い方を我々は常用する。

現代日本に果たして、イルミナテイのエージェントのレベルの人物が存在するだろうか。

明治以降現在まで、イルミナチイのエージェントとして活動した日本人は、少なくとも一人存在した。それは、あの有名なゾルゲ・スパイ事件の尾崎秀実である。

このことについては、誰も異議を申し立てるものはいないだろう。

これに対して、イルミナチイの走狗についてはどうか。イルミナテイ問題のもっとも重要な事項は、走狗についての理解である。

筆者は、現代日本の代表的なイルミナテイの走狗として、とりあえず次の五名を挙げた。

[1]中丸薫

[2]ベンジャミン・フルフォード

[3]副島隆彦

[4]安部芳裕

[5]鬼塚英昭

以上の五名である。

筆者の理解によれば、走狗は骨を一本放り投げると死に物狂いで走る。走狗にとっては、自分がイルミナテイのご主人さまによってそのように骨を投げてくれること自体が誇りであり、自慢であり、使い捨てにされるということ自体がとてつもなく名誉である。

こういうふうに見ると、我々は走狗としてのイルミナテイを適切に定義し、観察することが出来るであろう。

しかし仮定によれば、地球人類のうち約20%は走狗である。これは膨大な数である。この人たちの役割は人類支配にとって無視できない。

メイコウは、イルミナチイの内実は中央銀行カルテルであるという。そして、そのような方向へと地球人類全体を持っていくためには、彼らイルミナテイは約20%(一二億人)の走狗を動かさなければならない。意図した方向に走狗の大軍を動かすために、彼らには何が必要とされるであろうか。

彼らは、私利私欲を原理とするイルミナテイというカルトが、走狗自身の立場であり、思想であるというふうに思い込ませなければならない。

この思い込みは、タルムードであり、カバラである。

メイコウが「イルミナテイとは、世界をハイジャックしたカルトである」というとき、それはこのことを意味するのである。

つまり、自分自身の利己主義的原理とイルミナテイの原理とを同一視するよう持ってゆかなければならないのだ。

イルミナテイの四つの構造のうち、こういう仕事が出来るのは走狗だけである。現代日本に生きる我々も、このイルミナテイの走狗たる人物の言行を注視していかなければならない。

平成21年4月21日記 太田龍